述志と叛意 日本近代文学から見る現代社会 書評|綾目 広治(御茶の水書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年1月25日 / 新聞掲載日:2020年1月24日(第3324号)

述志と叛意 日本近代文学から見る現代社会 書評
全身全霊で立ち向かう批評精神
「おのれの生き方」を振り返らせる説得力

述志と叛意 日本近代文学から見る現代社会
著 者:綾目 広治
出版社:御茶の水書房
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 本書は、「ポストモダン」論議が盛んだった一九八〇年代の文学(研究)状況を根底から批判した『脱=文学研究 ポストモダニズム批評に抗して』(九九年、日本図書センター刊)で批評家・近代文学研究者として名を知られるようになった著者の十一冊目の著書である。本書が批評対象として取り上げている文学者は、表題に名が挙げられた者だけを列記すれば、柄谷行人、松本清張、高橋和巳、永瀬清子、内田百閒、西川徹郎(俳人)、西郷竹彦(文芸学者)、夏目漱石、武者小路実篤ら白樺派の作家たち、浅田次郎、井伏鱒二、大木惇夫(詩人)、立松和平、大城立裕、等々であり、文学や思想、社会の在り様に関する論考としては「〈明治維新一五〇年〉と『資本論』一五一年」、「〈近代化〉言説の再考」、「文学と思想の課題――現代の政治・社会・思想状況の中で」などである。

このように批評対象の「広さ」と「多彩さ」を特徴とする本書の魅力は、何と言っても著者の批評眼=批判精神の確かさ、ブレの無さにある、と言っていいだろう。著者は、本書の副題「日本近代文学から見る現代社会」からも窺えるが、「時代や社会の在り様を深く刻印し、かつ時代や社会の制約を超える」という文学や芸術の本質を踏まえて、批評対象とした柄谷行人や高橋和巳、松本清張、内田百閒らは、自らの言葉=表現を駆使して支配体制(=権力)への「叛意=異化意識」を表明してきた、と断じる。もちろん、その「叛意」は著者自身の思想から生まれたものの反映とも言えるが、具体的には柄谷行人を論じた「思想の現在――柄谷行人とアソシエーション論」に最も色濃く表されている。この論稿で著者は、資本(主義)とネーション(国家)が最優先されている現在の社会や世界の在り様を否定的に超える組織(アソシエーション=生産消費組合)こそ、自分たちが目指すべき社会や政治の在り様なのではないか、との提言を行っている。

この著者の姿勢は、「西郷文芸学の特質と他理論との関係」や「西郷竹彦の漱石・表現論を読む」等の論考で明らかにしているように、「すぐれた文芸とは、人間が対象(自然とか、人間、社会、歴史、等)に働きかけ、それをよりよき方向に変革してゆくことのなかで、自己もまた変革されるというお互いの関係のなかに生きているものであることを、正しくとらえ描いたものである」とか、「正しい思想とは、現実を現状のままに保守する思想ではなく現実をよりよく変革する思想でなければならない」などと主張してきた西郷竹彦の「文芸学」から学んだもの、と言える。またその確固としたブレの無い文学観は、巻末に付された「人名索引」を見ればわかることだが、内外の夥しい文献からえた該博な知識に裏打ちされたものと言ってよく、著者の日頃の精進によって培われたものに他ならない。

さらに言えば、ポストモダニズムを援用した批評が横行した時代から、今は「指標無き混迷の時代」を迎えている現代批評の世界にあって、「文学(芸術)は時代や社会の在り様と深い関係にある」という表現行為の原則(本質)を手放さず、どのような対象にも全身全霊で立ち向かっていく著者の姿勢は、本書所収の批評を読む者に「おのれの生き方」を振り返らせるほどに説得力があり、その意味でもこの書の価値を高めるものになっていると言っていいだろう。創作家だけでなく、近代文学や現代文学の研究、批評に携わる者は、立ち止まって本書を一読する必要があるのではないか、というのが自戒を込めた率直な本書に対する感想である。
この記事の中でご紹介した本
述志と叛意 日本近代文学から見る現代社会  /御茶の水書房
述志と叛意 日本近代文学から見る現代社会
著 者:綾目 広治
出版社:御茶の水書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「述志と叛意 日本近代文学から見る現代社会 」出版社のホームページはこちら
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