いやいやながらルパンを生み出した作家 モーリス・ルブラン伝 書評|ジャック・ドゥルワール( 国書刊行会 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年1月25日 / 新聞掲載日:2020年1月24日(第3324号)

いやいやながらルパンを生み出した作家 モーリス・ルブラン伝 書評
本物の作家の人生は劇的じゃない
本邦初訳、ルブランの決定版伝記

いやいやながらルパンを生み出した作家 モーリス・ルブラン伝
著 者:ジャック・ドゥルワール
翻訳者:小林 佐江子
出版社: 国書刊行会
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 作家にとって最も重要なのは作品が読まれることだ。マスメディアを通じて人物像ばかりが知られ、肝心の著作が読まれていない作家は所詮二流でしかない。文学史を紐解けば、生前に行動や言動が際立っていたために作家本人は著名人になったものの、死後はさっぱり読まれていない者が数多く確認できる。だが、『いやいやながらルパンを生み出した作家 モーリス・ルブラン伝』の主人公にはそんな心配は一切無用である。

モーリス・ルブランが生み出した怪盗紳士アルセーヌ・ルパンは今でも世界的な知名度を誇っている。たとえルブランの『アルセーヌ・ルパン・シリーズ』の原典を実際に読んだことがない人でも、ルパンの孫という設定を持つ大泥棒が活躍する『ルパン三世』でその存在は知っているはずだ。ところが、ルパンを生み出した作家ルブランについてはこれまでほとんど知られてこなかった。ルブランの人生が知られていなかったのは日本だけではなく、本国フランスでも同様だったらしい。それもそのはず。ルブランの決定版伝記は一冊しか存在しない。その本邦初訳が本書である。

一八四六年、フローベールが住んでいたルーアンでモーリス・ルブランは生まれた。若き日のルブランは文学的野心に燃え、パリに出て作家活動を始める。モーパッサンに私淑し、初期は心理小説を書いて、純文学作家としてそこそこの評判を得ていた。しかし、戯曲の失敗と長編小説『熱情』の不評、経済的理由から娯楽作品に手を染める。記念すべきルパンの第一作『アルセーヌ・ルパンの逮捕』もその頃イギリスでシャーロック・ホームズが大当たりを取っており、当時流行っていた「優雅な泥棒というテーマ」に合わせて書かれたものに過ぎなかった。しかし、ルパンはルブランがまったく予期しなかった大成功を収めてしまう。その結果、ルブランは生涯に渡ってルパンの冒険譚を書き続ける羽目になった。ルブランは「もはやあいつと縁を切ることはできないのだ。僕と同時にあいつは仕事机に座る。僕はあいつの影になってしまい、あいつに従うだけなのさ」とルパン・シリーズの執筆について愚痴を零しながら『ルパン対ホームズ』、『奇巌城』、『813』、『カリオストロ伯爵夫人』と名作を次々と発表していく。

怪盗ルパンの名声に反して、生みの親のルブランは徹頭徹尾目立たない人間だった。謙虚だったルブランの生涯に劇的な要素は何もない。二度の結婚、子供の誕生、孫が生まれ、祖父になる。そして、第二次世界大戦中の一九四〇年に風邪を悪化させて死んだ。それだけである。しかし、この堅実な人生が異彩を放っているのだ。作家の伝記は波乱万丈の人生だったり、病んだ精神状態を描いたりすることが多い。そういった陳腐な代物を読み飽きた目に本書は極めて新鮮に映る。それこそルパン・シリーズを思わせるスピーディな簡潔な文体でルブランの人生が描き出されており、四百ページを超える大著にもかかわらず、一気に読み通せるほど面白い。規則正しい執筆生活を送り、嫌々ながらも傑作を生み出し続けたルブランは本人の思惑はともかくとして、正に王道の作家だったと言えるだろう。作品は読まれ、作家はその影に隠れる。これこそが真の作家の有り様だ。芝居のような人生を送っている作家は偽物である。本書を読めば、本物の作家がいかなるものなのかを知ることができる。
この記事の中でご紹介した本
いやいやながらルパンを生み出した作家 モーリス・ルブラン伝  / 国書刊行会
いやいやながらルパンを生み出した作家 モーリス・ルブラン伝
著 者:ジャック・ドゥルワール
翻訳者:小林 佐江子
出版社: 国書刊行会
以下のオンライン書店でご購入できます
「いやいやながらルパンを生み出した作家 モーリス・ルブラン伝 」出版社のホームページはこちら
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