風神雷神Juppiter,Aeolus 上 書評|原田 マハ( PHP研究所)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年1月25日 / 新聞掲載日:2020年1月24日(第3324号)

風神雷神Juppiter,Aeolus 上 書評
謎の絵師、宗達に挑む
物語の謎がとける瞬間、読者は瞠目し心震える

風神雷神Juppiter,Aeolus 上
著 者:原田 マハ
出版社: PHP研究所
このエントリーをはてなブックマークに追加
 今から約四〇〇年前、京都に一人の絵師がいた。その名は俵屋宗達。「風神雷神図屏風」で知られており「琳派の祖」と言われる画家だ。原田マハが初めて挑んだこの歴史小説上下巻のカバーを彩る屏風絵を目にしたことのある人は多いだろう。しかし、これだけ名が通っていながら彼は謎の画家なのである。絵師としての活動期間も長く交友範囲も広かったが、文献史料はひとつもない。生没年すらはっきりと分からず、どんな環境で育ち、なぜ絵師になったのか、人物像がわかる記録もない。

「風神雷神図屏風」は宗達の作品の中で最も有名であり国宝だ。だが制作時期も描かれた目的も定かではない。風神と雷神が天空で出会った瞬間を捉えた動きのある、空間の広がりを感じさせる構図は非常にユニークで、他の琳派の絵とは一線を画したできばえだ。この傑作を宗達がなぜ描いたのかという謎を、画家の若き日に焦点を当てて解き明したのが本書である。戦国時代の日本とルネサンス時代のイタリアを結んで繰り広げられる青年宗達の冒険譚だ。
物語は京都国立博物館の宗達の研究者、望月彩をマカオ博物館の学芸員が突然来訪する現代のエピソードから始まる。彩は他言無用を条件に一枚の板絵と古文書を見せられる。マカオの聖ポール天主堂の遺構の発掘現場から持ち去られた盗品らしい。ギリシャ・ローマ神話の雷を司るユピテルと風神アイオロスが描かれた油絵に添えられた日本語の古文書の中に「俵屋宗達」の文字が。戦国日本の謎の絵師と西欧の油絵にどんなつながりがあるのか?

時はさかのぼり、一五七〇年代。京都の扇屋の息子宗達は、幼少より器用に絵を描き、評判を聞きつけた織田信長にその腕前を披露する。気に入られた少年は信長の命により、当代きっての絵師狩野永徳を手伝って「洛中洛外図」を描く。さらに一五八二年、キリシタン大名の名代の天正遣欧使節団に加わり、信長の密命を帯びてこの屏風絵をヴァチカンのローマ教皇に届けて献上する役目を担う。日本出立から三年をかけてローマへ。

四人の少年と宗達からなる使節団の旅は苦難に満ちたものだった。度重なる嵐との遭遇、季節風を待ってのマカオやインドの都市での数か月の待機、インド洋の尋常ならざる暑さ。その苦しい旅路を乗り越えさせたのは四人の信仰心であり、宗達の好奇心と絵画への情熱だった。「この世には、自分が見たことのないものがまだまだたくさんある。いつの日か、それらをこの目で見てみたい。そして自分の筆で写し取ってみたい。――そのために、わいは、もっともっと描く。びっくりするくらいおもしろいもんを描く。そして、きっと、天下一の絵師になってみせる」

キュレーターの資格を持つ作者の著書には美術を題材としたものも多いが、本書は中でも絶品のひとつだろう。丁寧に描かれた狩野永徳と宗達の創作にかける熱意や、宗達とキリシタンの少年たち、とりわけマルティノとの厚い友情に読者は胸を打たれ、織田信長やスペイン王フェリペ二世との対面の張り詰めた空気に固唾を呑む。

そして最後に、宗達がミラノの世界的に有名な絵画の前でひとりの少年と出会い、物語の謎がとける瞬間、読者はその意外な人物に瞠目し宗達との邂逅に心震えることだろう。
この記事の中でご紹介した本
風神雷神Juppiter,Aeolus 上/ PHP研究所
風神雷神Juppiter,Aeolus 上
著 者:原田 マハ
出版社: PHP研究所
「風神雷神Juppiter,Aeolus 上」は以下からご購入できます
風神雷神 Juppiter,Aeolus 下/PHP研究所
風神雷神 Juppiter,Aeolus 下
著 者:原田 マハ
出版社:PHP研究所
「風神雷神 Juppiter,Aeolus 下」は以下からご購入できます
「風神雷神 Juppiter,Aeolus 下」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
眞鍋 惠子 氏の関連記事
原田 マハ 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
文学 > 日本文学 > 歴史・時代関連記事
歴史・時代の関連記事をもっと見る >