2016年回顧 科学技術 応用・実用重視の傾向、軍事利用をめぐる議論|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年12月23日 / 新聞掲載日:2016年12月23日(第3170号)

2016年回顧 科学技術
応用・実用重視の傾向、軍事利用をめぐる議論

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囲碁名人とコンピュターの対戦や、入試問題を解く「東ロボくん」が話題となり、人工知能(AI)が注目を集めている。以前も何回かブームがあったが、大黒岳彦『情報社会の<哲学>―グーグル・ビッグデータ・人工知能』(勁草書房)は、現在の状況に全体的展望を与える。一一三番元素「ニホニウム」が周期表に登録され、またノーベル賞受賞者が三年続くなどの成果がある一方で、応用・実用重視の最近の傾向に基礎科学研究弱体化への懸念が受賞者から表明されている。しかし、さらに進んで科学の軍事利用も求められるようになってきた。

防衛予算による研究費が今年度大幅に増額され、第二次大戦への反省から軍事研究に関与しないと宣言してきた日本学術会議がその方針を見直そうとしている。会長が防衛研究のための資金を受け入れてもよいのではと発言し、それをめぐり現在議論が進行中である。池内了『科学者と戦争』(岩波新書)は、「科学は両義的(デュアルユース)」であるから防衛予算を受け入れてもよいとする動きに警鐘を発し、15年戦争と日本の医学医療研究会編『戦争・731と大学・医科大学』(文理閣)は、第二次大戦中に日本軍が中国で行った人体実験とそれをめぐる対応を扱い、軍事研究復活阻止を訴える。科学研究と軍事の問題は、戦後のある時期まで熱心に議論されていたが、それが再び正面からとりあげられるようになってきた。

科学論、とりわけ批判的科学論をリードしてきた金森修氏が五月に亡くなった。最後の著作で没後刊行された、金森修編『昭和後期の科学思想史』(勁草書房)、金森修・塚原東吾編『科学技術をめぐる抗争―リーディングス戦後日本の思想水脈2』(岩波書店)は、いずれも戦後日本の科学論をあとづけたものである。金森氏は「科学技術社会論(STS)」が科学批判の契機をなくし科学啓蒙主義に収斂してしまったことに失望し、当初は理事もつとめていた科学技術社会論学会を退会してしまった。科学研究と軍事の問題を含め、戦後さまざまになされた議論の中にこそ、今後の科学論や科学批判を発展させるための手がかりがあるとしている。

シェイピン他(柴田和宏他訳)『リヴァイアサンと空気ポンプ―ホッブズ、ボイル、実験的生活』(名古屋大学出版会)は、一七世紀の実験科学形成期を扱いながら、科学論全般に多大な影響をあたえた社会構成主義科学論の重要な著作。三〇年ほど前に刊行されたが、クーンの「パラダイム論」以降の科学論における基本文献の一つであり、ラトゥールの「虚構の近代」の議論などもそれに多くをおっている。それがようやく日本語で読めるようになった。ワインバーグ(赤根洋子訳)『科学の発見』(文藝春秋)は、シェイピンなどの社会構成主義科学論に反発するノーベル賞物理学者が、あえて科学啓蒙主義に回帰して科学の進歩を守る立場から科学史を叙述している(シェイピンはそれを批判する書評を書いた)。

モンゴメリ(大久保友博訳)『翻訳のダイナミズムー時代と文化を貫く知の運動』(白水社)は、翻訳という観点からアラビア科学のラテン語訳などの古代・中世の科学史を論じ、また日本の西欧科学の導入についても詳しく検討している。小川眞里子『病原菌と国家―ヴィクトリア時代の衛生・科学・政治』(名古屋大学出版会)は、国家医学・帝国医学と進化論の関係を含め社会と医学の関係を解明し、坂野徹他編『人種神話を解体する2―科学と社会の知』(東京大学出版会)は、人種主義は無知の所産ではなく、科学がそれを推進してきたのではという観点から考古学・人類学・医学などの歴史を再考している。

レーン(斉藤隆央訳)『生命、エネルギー、進化』(みすず書房)は、ミトコンドリアと進化で問題提起をした最前線の研究者が、シュレディンガーの「生命とは何か」の古典的議論は完全に間違った疑問を発していたと批判する大胆で挑戦的な著作。
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