異世界と転生の江戸 平田篤胤と松浦静山 書評|今井 秀和(白澤社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年1月25日 / 新聞掲載日:2020年1月24日(第3324号)

異世界と転生の江戸 平田篤胤と松浦静山 書評
篤胤の情熱、静山の冷徹
篤胤の情熱、静山の冷徹

異世界と転生の江戸 平田篤胤と松浦静山
著 者:今井 秀和
出版社:白澤社
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 江戸後期、天狗にさらわれ異世界を見てきたという少年・寅吉が現れ大騒ぎになった。その寅吉の証言を国学者の平田篤胤がまとめた『仙境異聞』が昨年、異例のベストセラーとなり、現代人を驚かせた。本書は、篤胤と同時代に怪異譚を含む一大随筆集『甲子夜話』を著した平戸藩主の松浦静山、さらに両者を取り巻く知識人ネットワーク(サロン)に着目。異世界譚が広まった社会状況や成立過程を丁寧に読み解いていく。

天狗小僧・寅吉が登場したのは、時代に変化の兆しが漂い始めた1820年。20年後に渋沢栄一が生まれるといえば、なんとなくイメージできるだろうか。仏教や漢籍による精神的支柱はゆらぎ、西洋の情報に接した知識人たちは、予測困難な未来の到来に不安を感じていた。そこで篤胤が目論んだのが、外来の思想を廃して、日本古来の神々への信仰を取り戻す世界観の再構築だった。その根本には人知を超えた幽冥界の存在が想定された。寅吉の語る異世界の光景は、まさに篤胤の考える幽冥界そのものに思えた。

篤胤は寅吉を自宅に住まわせ、共に暮らしながら聞き取りを続ける。篤胤の家に出入りする文人や宗教家、エンジニアといった江戸の知識人たちの大半も寅吉の話を信じた。3年後、今度は前世の記憶を持つという8歳の少年・勝五郎が現れた。今度も篤胤は熱心に取材し、ついには勝五郎も自宅へ招くに至る。篤胤は少年たちの話を全面的に信頼し、家族同然の関係を築こうと四苦八苦している。

一方、静山の態度は対照的だ。『甲子夜話』には怪異譚も多いが、話の最後には常に静山の冷静な見解が付されている。真偽が判断できないものは「そんなこともあろうか」と保留する。篤胤が〇と×の2分法なら、静山には△もあった。ちなみに静山自身が幽霊を見たという話は△だ。

篤胤と静山は怪異譚好きの著名人で共通の知人も多いのに、最後まで接触することはなかった。甲子夜話には、篤胤の家にいた寅吉の記事はない。転生した勝五郎の記録はあるが、静山は篤胤と共通の知人がセッティングしてくれた勝五郎との対面の機会をなぜか断った。理由として著者は二人の政治的な立ち位置を指摘する。篤胤は異世界を語る極端な思想家として幕府ににらまれていた。かたや静山は体制の一翼を担う大名であり儒家とも近い。静山は意識的に篤胤を避けていた。仮にそのころSNSがあって二人が利用していたとしたら、「共通の友だち」がやたら多いのに決して直接にはつながらない――そんな関係だったかもしれない。

寅吉の登場から200年。怪異譚は器用に姿を変えながら、相変わらず世間を騒がせている。これまで世界には幾人もの寅吉や勝五郎が現れた。そしてまた、怪異に魅かれる篤胤や静山も生まれ続けている。おそらくは著者もその一人であって、だからこそ本書は、現代を再照射する魅力にあふれている。
この記事の中でご紹介した本
異世界と転生の江戸 平田篤胤と松浦静山/白澤社
異世界と転生の江戸 平田篤胤と松浦静山
著 者:今井 秀和
出版社:白澤社
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「異世界と転生の江戸 平田篤胤と松浦静山」出版社のホームページはこちら
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