2016年回顧 マスコミ 共通する“メディア”ファースト メディア環境の危機の本質はメディアの内部に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年12月23日 / 新聞掲載日:2016年12月23日(第3170号)

2016年回顧 マスコミ
共通する“メディア”ファースト
メディア環境の危機の本質はメディアの内部に

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安倍晋三、ドナルド・トランプ、習近平、ロドリゴ・ドゥテルテ、小池百合子に共通するのは何か。英国のEU離脱劇も加えていいだろう。答えは「~ファースト」ではないだろうか。そして~に入る一つに「メディア」がある。そうした今日的メディア環境を描いた三冊をまずあげよう。

ニューヨーク・タイムズ前東京支局長のマーティン・ファクラー『安倍政権にひれ伏す日本のメディア』(双葉社)、TBS「報道特集」キャスターの金平茂紀『抗うニュースキャスター TV報道現場からの思考』(かもがわ出版)、そしてNHK元中国総局長の加藤青延『覇王習近平―メディア支配・個人崇拝の命運』(展望社)である。

ファクラーの前作(『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』、二〇一二年)も小欄で紹介したが、東日本震災後から加速する日本の言論状況の悪化に警鐘を鳴らす。金平もファクラー同様、政権のメディア介入(とくに報道番組)に強く抗議し、「メディアの独立性が脅威にさらされている」ものの、「危機の本質はメディア内部に」あると指摘している。

同じように、萎縮、忖度、自己規制という視点から、メディアを蝕む不都合な真実を暴き出し、メディア復権の手立てを試みようとしたのが上出義樹(北海道新聞出身)『報道の自己規制 メディアをショクむ不都合な真実』(リベルタ出版)である。やはり3・11以降強まる政治権力からの圧力に翻弄されるマス・メディアの有様を厳しく問う『隅井孝雄のメディアウォッチ 3・11から安保法制まで』(リベルタ出版)も併せて読んでおきたい。

大手メディアとは異なる視点から「中央」「地方」という二極構図に帰結するか否かは別として、根底では日本のメディア、社会に通じる問題を描き出す地方発ジャーナリズムに目を向けてみると、高田昌幸(高知新聞)、大西祐資(京都新聞)、松島佳子(神奈川新聞)『権力に迫る「調査報道」 原発事故、パナマ文書、日米安保をどう報じたか』(旬報社)のように、地方紙記者が原発事故、パナマ文書、日米安保を軸にジャーナリズムの在り方を示す秀作である。

梅本清一『地方紙は地域をつくる 住民のためのジャーナリズム』(七つ森書館)は北日本新聞(富山県)、松田修一『新聞今昔』(東奥日報社)は東奥日報(青森県)を中心に地方紙の歩んだ道といまを描く。猪股征一『増補実践的新聞ジャーナリズム入門』(信濃毎日新聞社、初版は二〇〇六年)もジャーナリズム入門書と企画された地方発の良書と言える。

転じて世界に目を向けると、ことし大きな話題となり、グローバルな調査報道で話題を集めているのが、バスティアン・オーバーマイヤー、フレデリック・オーバーマイヤー著、姫田多佳子訳『パナマ文書』(KADOKAWA、解説池上彰)と、日本経済新聞社の巨額なメディア買収劇を描いた小林恭子『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)を挙げたい。加藤晴久『「ル・モンド」から世界を読む 2001―2016』(藤原書店)は、9・11以後日本では語られない世界の趨勢に少しだけ近づけてくれる。世界的な転換期を迎えている公共放送について、大石裕ほか編著『メディアの公共性 転換期における公共放送』(慶應義塾大学出版会)が今後の方向性を探る。

マイケル・エメリー/エドウィン・エメリーほか著、大井眞二ほか訳『アメリカ報道史 ジャーナリストの視点から観た米国史』(松柏社)は、十年以上をかけて千頁近くの大著の訳に挑んだ研究者に頭が下がる。全米でも第一級の原著は、「歴史の目撃者」であるジャーナリストの視点から入植から二十世紀までの米国史を見事に描いている。訳者による「書誌」「補遺」なども貴重だ。

伊藤洋一『情報の強者』(新潮新書)は個人が「情報の供給過剰時代」にどう対処するかを優しく説いている。著者が提唱する情報のループ(思考の輪)つくりやよそ者の視点を持つことに耳を傾けるといい。そうすると、炎上参加者はネット利用者の〇・五%という実証分析を出した田中辰雄・山口真一『ネット炎上の研究 誰があおり、どう対処するか』(勁草書房)、ケヴィン・ケリー、服部桂訳『〈インターネット〉の次にくるもの 未来を決める12の法則』(NHK出版)やジェフ・ジャービス著、夏目大訳・茂木崇監修『デジタル・ジャーナリズムは稼げるか―メディアの未来戦略』(東洋経済新報社)を読むとき、多少違った読み方になるのではないかと期待する。
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