連載 スキャンダルと芸術   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 138|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2020年1月27日 / 新聞掲載日:2020年1月24日(第3324号)

連載 スキャンダルと芸術   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 138

このエントリーをはてなブックマークに追加
1980年頃の映画会議

JD 
 確かに、ポランスキーは昔悪い行いをしたのでしょう。そのために、今でも新作の度に問題になっている。それだけのことです。加えて、時代が変わるにつれて、彼に対する非難が強まってきたように思います。そのことが、彼の映画を見ることの妨げになっています。彼のした行いは決して良いものではありません。しかしながら、私たちは彼の映画に留まりましょう。彼自身とは、別の事柄です。
HK 
 ラース・フォン・トリアーですが、彼の映画を見ていると、二〇〇〇年頃からスキャンダルにしかならない映画を作っています。『ドッグヴィル』と続編の『マンダレイ』はアメリカの社会に対する非難ですし、『アンチクライスト』はキリスト教信者を怒らせるような内容です。
JD 
 彼の映画は、最初から問題になるようなテーマを扱い続けています。
HK 
 同じデンマーク人では、ドライヤーもスキャンダルになっていましたよね。
JD 
 『奇跡』のことでしょうか。確かに、公開された当時においては、キリストを、ドライヤーが行なったような形で仄めかすことは、決して受け入れられた行いではありませんでした。
HK 
 ドゥーシェさんの語る、そうした時代の移り変わりを理解するのは、私たちの世代には難しいです。かつてみたいに大きな対立のなくなった時代に生きているせいなのかもしれませんが、どんな出来事によって大きなスキャンダルを引き起こせるのかが簡単には想像できません。おそらく反フェミニズムのようなことをすれば簡単に問題になると思いますが、あっという間に消費されてしまうはずです。
JD 
 今日の世界において、スキャンダルを引き起こすのは難しくなってきたと思います。しかし、偉大な映画というものは――映画だけに関わらず偉大な芸術というものは――、どこかで人々に他とは異なった印象を与えるものなのです。ゴダールの映画も昔からスキャンダルとは無縁ではありませんでした。そして、ルノワールもロッセリーニも様々な問題を引き起こしてきました。その意味では、スキャンダルを引き起こせるというのは、偉大な芸術家の一種の証とも言えるでしょう。
HK 
 ブルトンやその周りのシュールレアリストたちは、スキャンダルをいかにして引き起こせるか考えていたそうです。彼らとは別に、ブニュエルはシュールレアリスムの運動に参加する前から、学生時代に神父や軍人の格好をして、スペインの街中を歩くことを楽しんでいたそうです。どちらも見つかれば大きな罪に問われることでした。
JD 
 ええ……。しかし、シュールレアリストたちは意図的にスキャンダルを引き起こしてきました。彼らにとっては、それで十分だったのです。彼らの時代においては、タブーとされることはわかりやすい形で存在していました。そして、それを見せつけるだけで芸術と呼ぶことにしたのです。一方でルノワールは、スキャンダルを起こすことなど全く考えていなかった。彼は、自分の感じた世界を、映画を通じて発表しただけなのです。そして、ルノワールの考えに対して拒否感を持つ人たちがいたのです。それも少しではなく、多くの人間が彼の考えについて来られなかった。ルノワールの映画が理解されるためには、何年も後になって、人々の持つ考えが変わるのを待たなければならなかった。ただ今日になっても、彼の持つ考えは十分に理解されていないかもしれません(笑)。
HK 
 ロッセリーニやゴダールも同じような状況ではないでしょうか。理解されないというよりも、理解しようとも思われていないと言ったほうがいいと思います。
JD 
 残念な状況だと思います。しかし、彼らの作品は今でもどこかで見られていますし、これからも見られていくでしょう。一方で、意図的にスキャンダルを引き起こそうとした作品は芸術ではなく、見られることもないはずです。
HK 
 それでもシュールレアリストの作品は、今でもおそらくジャン・ルノワール以上に集客力があると思います。
JD 
 それは一部だけです。 〈次号につづく〉

※写真は右端にドゥーシェ、前列その左横にベルナール・エイゼンシッツとジャン・ナルボニ。後列右奥の一団の一番左にセルジュ・ダネー。
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテーク・ブルゴーニュ)
このエントリーをはてなブックマークに追加
ジャン・ドゥーシェ 氏の関連記事
久保 宏樹 氏の関連記事
ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」のその他の記事
ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」をもっと見る >
芸術・娯楽 > 映画 > 映画論関連記事
映画論の関連記事をもっと見る >