医学とはどのような学問か 医学概論・医学哲学講義 書評|杉岡 良彦(春秋社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月1日 / 新聞掲載日:2020年1月31日(第3325号)

医学とはどのような学問か 医学概論・医学哲学講義 書評
医学部・看護学部改革のために
三つの要因を考慮しながら、医学の全体像を示す

医学とはどのような学問か 医学概論・医学哲学講義
著 者:杉岡 良彦
出版社:春秋社
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 本書は、日本の医学部や看護学部などを改革するために、「医学概論」の新しい教科書を志向した試みである。さまざまな学部で大きな改革をするために、一年生を対象とした「概論」が各大学で作られている。医学部や看護学部など医療に深く関連した学部においても、「医学概論」の授業は設立されている。そのような医学概論がどの程度成功しているのかよく分からない。筆者の印象は、方向性と枠組みに「多様性」があるということである。多様性は良い意味と悪い意味があり、後者に関しては、個々の教員の好みで、主題やメッセージに関する強い方向付けが行われているという形や、複数の教員が集められたオムニバスの授業で好き勝手なことを話すという形がある。そのような医学部における深みがない医学概論を改革するために、複雑だが鮮明な図式を意識して描いたのが本書である。

その図式は、三つの要因を考慮しながら、医学の全体像を示すことによって示される。一つは自然科学の性格を持つ医学が持つ「科学論」を重んじること、一つは人文学が持つ「人間観」を医療の中に組み込むこと、もう一つは「医療倫理と医療制度」という人文学と社会科学を融合させた視点を組み込むことである。このような三つの要因を考えながら医療を三つの視点から向上させることが、本書の大きな目的である。

この図式は、著者が京都大学と関係が深いことに一つの起源をもっている。特に京都帝国大学出身の哲学者で大阪帝国大学の医学部で医学概論を講義した澤瀉久敬(一九〇四―一九九五)と、一九五〇年代に京大の農学部において農学原論講座を始めた柏祐賢(一九〇七―二〇〇七)などが重要なモデルである。

しかし、このことが本書を旧態依然とするわけではまったくない。科学論、人間観、そして倫理と制度に関して、それぞれの主題にあった個別の例が取り上げられ、丁寧に議論されている。たとえば科学論が取り上げられる第3講と第4講では、DNAなどの分子生物学の考え方と臨床疫学のEBM(エビデンス・ベイスド・メディシン)が取り上げられている。人間観が論じられる第5講と第6講では、アメリカの内科医で精神科医であったジョージ・エンゲル(1913―1999)と、オーストリアのユダヤ人の精神科医でホロコーストを生存してから哲学を学んだヴィクトール・フランクル (1905―1977)などの議論が丁寧に紹介されている。そして、第7講と第8講では、医療倫理と医療制度の問題が取り上げられ、人工呼吸器、体外受精、臓器移植、遺伝子操作、優生学などの問題が取り上げられていく。

これらは、日本の医療者たちが、近現代における医療の科学技術の水準を高めるだけでなく、哲学がひらく全体像を知らなければならない基礎的な知識である。医療概論を担当する多くの教員がテキストとして直接使い、医学生たちが憶えておく教科書として非常に質が高い。教科書の一つとして、考えてみると良いであろう。
この記事の中でご紹介した本
医学とはどのような学問か 医学概論・医学哲学講義/春秋社
医学とはどのような学問か 医学概論・医学哲学講義
著 者:杉岡 良彦
出版社:春秋社
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