日本人にとってエルサレムとは何か 聖地巡礼の近現代史 書評|臼杵 陽(ミネルヴァ書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 学問・人文
  5. 哲学・思想
  6. 日本人にとってエルサレムとは何か 聖地巡礼の近現代史の書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月1日 / 新聞掲載日:2020年1月31日(第3325号)

日本人にとってエルサレムとは何か 聖地巡礼の近現代史 書評
パレスチナ/イスラエル問題に迫る
著者にしか書くことのできない稀有な書物

日本人にとってエルサレムとは何か 聖地巡礼の近現代史
著 者:臼杵 陽
出版社:ミネルヴァ書房
このエントリーをはてなブックマークに追加
本書を通読して、まず著者の博覧強記ぶりにあらためて驚かされると同時に、いわゆるパレスチナ/イスラエル問題を本当に深いところで日本も含む「世界史の問題」として迫ろうとしている著者の切実さを再認させられた。

言うまでもなく著者の臼杵陽氏は、パレスチナ/イスラエル研究の第一人者であり、広域的なアラブ・イスラーム圏とユダヤ世界とその両方にまたがる知見にもとづいた分析は、アラブ・パレスチナ「側」の研究者とユダヤ・イスラエル「側」の研究者の双方から一目置かれている。関連する研究書は質・量ともに群を抜いている。

しかし、それだけではない。著者には一冊、他の諸著作とは明らかに異質な、だが重要な研究書がある。『大川周明――イスラームと天皇のはざまで』(青土社)であり、戦時期の国粋主義者にしてアジア主義者、そしてイスラーム研究者であった大川周明の研究書だ。著者を、他のパレスチナ/イスラエル研究者らと最も一線を画するのは、実はここだと評者は見ている。すなわち、日本思想史におけるアジア主義者たちの中東(西アジア)認識を深い射程に組み入れつつ、パレスチナ/イスラエル問題を分析しているのである。

本書はこの『大川周明』の続編的な性格を有している。本書は、大川周明を含みそれ以前から以後までの、つまり明治期から戦後期までの日本人の作家や学者や軍人がどのようにパレスチナ(アラブ・イスラーム圏)を、そしてシオニズム運動(ユダヤ人国家建設運動)を見ていたのかを、通史的に分析したものである。徳富蘆花、内村鑑三、矢内原忠雄や、満川亀太郎、中野好夫、遠藤周作などなどの名前がズラッと並んでいる。そして著者は本書の序章とあとがきで、「聖地エルサレム」についての訪問記や論評に限定したと断り書きをしているが、しかしどうしてもこれらの知識人たちの言論活動そのものがエルサレムにはとどまらず、アラブ・イスラーム文化やキリスト教・ユダヤ教・シオニズム運動にまで及ぶため、著者の論述もまたそれに応じて、日本思想史における中東認識、すなわちその歪みや偏りや不足の指摘まで含んでいる。

そのため、率直に言うと、「エルサレム」に限定したかのような本書のタイトルは内容にややそぐわない。これは批判ではない。本書のスケールはもっとはるかに大きいのだ。とりわけ、第一次世界大戦期の日本のアジア侵略・植民地化と、ヨーロッパ列強の(旧)オスマン帝国領分割、そのなかでのパレスチナとシオニズム運動を重ねた当時の日本人学者の視線の分析は重要だ。日本社会のパレスチナ/イスラエル問題への関わりや認識の歪みの根源と来歴があぶり出されるからである。

この重厚な思想史的分析のなかに、端々に著者自身のエルサレム滞在の体験談が織り交ぜられ、問題意識を現代に引きつけると同時に、本書を読みやすいものとしてくれている。まさに臼杵陽氏にしか書くことのできない稀有な書物である。
この記事の中でご紹介した本
日本人にとってエルサレムとは何か 聖地巡礼の近現代史/ミネルヴァ書房
日本人にとってエルサレムとは何か 聖地巡礼の近現代史
著 者:臼杵 陽
出版社:ミネルヴァ書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「日本人にとってエルサレムとは何か 聖地巡礼の近現代史」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
早尾 貴紀 氏の関連記事
臼杵 陽 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
学問・人文 > 哲学・思想関連記事
哲学・思想の関連記事をもっと見る >