千葉雅也*佐々木敦対談 「デッドライン」を越えた、その先 『デッドライン』(新潮社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年1月31日 / 新聞掲載日:2020年1月31日(第3325号)

千葉雅也*佐々木敦対談
「デッドライン」を越えた、その先
『デッドライン』(新潮社)刊行を機に

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デッドライン(千葉 雅也)新潮社
デッドライン
千葉 雅也
新潮社
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『動きすぎてはいけない』『勉強の哲学』など哲学思想書で異例のベストセラーを刊行している千葉雅也氏の初小説『デッドライン』(新潮社/初出『新潮』二〇一九年九月号)が刊行された。
本書はフランス現代思想を研究するゲイの大学院生が、赤いランプの明滅するハッテン場、大学のゼミ教室、ファミレス、深夜のドライブなど、二十一世紀を迎えたばかりの東京を回遊しながら、迫りくる修論のデッドラインを前に、ゲイであること、哲学を生きることに、もがき格闘する物語である。
本書の刊行を機に、著者の千葉雅也氏と批評家の佐々木敦氏による対談を企画した。
令和元年の年末、許された時間ぎりぎりまでお話しいただいたデッドライン対談!(編集部) 

『デッドライン』(新潮社)刊行を機に
第1回
散文/現代詩/偽記憶詩

千葉 雅也氏
佐々木 
 以前から折りに触れて小説を書こうとしているというお話を伺っていましたが、今年『デッドライン』(新潮社)を発表されました。まず、初めての小説が最終的に『デッドライン』という作品になるまでにどのようなプロセスがあったのかということから伺いたいのですが、小説を書こうという気持ちは結構前からあったんですよね。
千葉 
 そうですね。いつか何かしら書いてみようとは思っていました。何人かの編集者から小説を書いてみたらどうかという話もあったし、自発的な部分も周囲からの励ましもあってそのうちにとは思っていたんです。考え始めたのは多分五年以上前の話ですが、どちらかというと詩の方が最近は好きだったので、改めて小説を意識的に読むようにして多少準備はしていたんです。本当に書くぞとなった昨年(二〇一八年)の段階ではまだ半分意識が詩的なものにあったので、それをもう少し長く書くというイメージでした。そもそも詩的な作品というのを最初にやらせてもらったのが『ROLa(ローラ)』(新潮社)という雑誌の連載(二〇一三〜一四年)で、ホンマタカシさんの写真と一緒に文章を書きました。自分の中で文学作品的なものを書いたのはあの辺りが初めてだと思うんです。
佐々木 
 『現代詩手帖』に詩作品を掲載されていますが、もっと後ですか?
千葉 
 あれはずっと後(『現代詩手帖』/詩「始まりについて」二〇一八年三月〜)ですね。あれも『ROLa』の散文詩が元になっていて、『ROLa』の散文詩は主人公のジェンダーが曖昧でいろんな記憶の断片や自分の実生活から持ってきた断片も入っていて、詩人の佐藤雄一さんは偽記憶詩と言ってくれたのですが、今話していて思い出しましたが、『アメリカ紀行』(文藝春秋)にせよ『デッドライン』にせよ、偽記憶詩というのが発端なんだなと思います。
佐々木 
 いわゆる現代詩や短詩型への関心も折々に表明されていますし、そういう一種の助走みたいなものがあって、その上である長さの小説を書いてみようということになったのですね。小説を書きつつあるというお話を伺った頃は散文詩の延長線上でそれがある長さになっていくようなものを想像していました。『デッドライン』にもそういう要素はあるのですが、一方でいわゆる私小説的な形式、実際に小説の主人公は年代的なことも重なって、千葉さんご自身を思わせるように書かれてあります。このことがかなり大きな選択としてあったのではないかと思いました。
千葉 
 二〇一八年の年末に佐々木さんとお話しした段階では、まだ散文詩的な実験の段階でしたが、そのすぐ後に出した『アメリカ紀行』では、ノンフィクションですがナラティブの都合上、エピソードをちょっと誇張したりして虚構化が始まっているんです。実生活から虚構を作り出すということを『アメリカ紀行』で経験して、その後作家の荻世いをらさんが薦めてくれた『クレーの日記』(みすず書房)を参考にしたり、日記的なものを意識するようになりました。「日記」というのはすごく具体的で私的なものですが日記の文体というのは息が短くなったり長くなったり緩急がランダムで、それが自分の中でベケットの散文と繋がった。日記の抽象度を高くしていくとベケットの持つ抽象性に近づいていき、逆にベケットをもっと具体化していくと日記になっていくと思ったんです。そういう感覚を持ちながら『アメリカ紀行』を一回通過して、そのあと二〇一九年の最初の頃に芳川泰久さんと角田光代さんが訳されたプルーストの『失われた時を求めて』の縮約版をパラパラと見ていたら、自分なりに「失われた時を求める」という感覚が出てきたんです。
佐々木 
 回想ということですね。
千葉 
 『失われた時を求めて』はフィクションなので作り話をしているわけですから、そこで回想とフィクションの関係をどう考えようかという問題が立ち上がった。いつか『失われた時を求めて』のようにシリーズで小説を書いていけるような気がしたんですが、その時点では第一作はイメージとしては散文詩のようなものだったわけです。それで昔の東京の知っている場所をグーグルマップで見たりストリートビューでルートを辿ったりしてバーチャルに移動していく中で、何か、もうこのことを書くしかないんだと思ったんです。後々やろうと思っていたけれど、これはもう最初からやるしかないと決めました。
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この記事の中でご紹介した本
デッドライン/新潮社
デッドライン
著 者:千葉 雅也
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
「デッドライン」出版社のホームページはこちら
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