連載 欲望の投射(ブニュエルの映画)  ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 139|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2020年2月3日 / 新聞掲載日:2020年1月31日(第3325号)

連載 欲望の投射(ブニュエルの映画)  ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 139

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ドゥーシェ(右端)の隣にトリュフォー(1983年夏~84年冬撮影)
JD 
 ルノワール以上に集客力があるシュールレアリストの作品は、一部だけです。確かに、彼らの作品の中には美術史において重要性を持ったものもありますが、多くの芸術家は忘れられているはずです。加えて、今日まで残っているのは、彼らの持っていた態度ではなく作品です。すでにあなたは知っていることだと思いますが、私は頭で作るような芸術が好きではありません。
HK 
 それでもブニュエルの映画は、ものすごく高く評価していますよね。
JD 
 ブニュエルの映画は、シュールレアリスムではありません。確かに、彼はシュールレアリスムの運動に参加したこともあり、そのように言われることもあります。しかし、私は映画におけるシュールレアリスムを信じていません。映画とは、現実を撮影することで成り立っています。つまり、現実に基づいた芸術です。そして、そのような芸術の基礎にあるのが科学技術です。映画とは、この上なく現実的なのです。ブニュエルの映画をよく見れば、曖昧なものではなく非常に現実的であると気づかされるはずです。
HK 
 『糧なき土地』や『忘れられた人々』などでしょうか。
JD 
 それらは、ブニュエルがスペインとメキシコの貧しい生活を撮影したものです。『忘れられた人々』は、ニューヨークやパリといった大都市とメキシコの小さな村の貧困を比較することから始まっています。当時、社会のそのような面を見せることは、権力の側にはよく思われず、さらには人々も貧困さを映画として見ることを拒んでいました。そのためにブニュエルは、多くの人から毛嫌いされることになりました。そして、二〇年近くにわたり映画を作ることはできませんでした。
HK 
 『忘れられた人々』においては、脚に滴る牛乳や夢と現実といったシュールレアリスムを感じさせるテーマが姿を表しています。
JD 
 それはメキシコに行く前からすでに見られます。その場合のシュールレアリスムとは、一体何を意味するのでしょうか。私は、そのようなブニュエルの演出が、曖昧な考えによって成り立っているとは思いません。ブニュエルの映画は最初(『アンダルシアの犬』)から、一つのシステムの上に成り立っています。そして、晩年になるにつれて、彼の作品は洗練されていき、他の誰も真似をできないものになりました。ブニュエルの映画の基礎にあるのは、欲望です。もし誰かが欲望することがあれば、彼は想像において、もしくは現実において、その欲望を投射する〔同じ動詞が精神分析と映写に用いられる=聞き手註〕ことになります。すべてのブニュエルの映画は投射によって機能しているのです。通常のありふれた映画監督にとっての物語は、始まりから終わりまで、一直線なものです。知的作業によって、物語の展開を入れ替えることで、様々な語り方があると思い込まれていますが、それほど重要な問題ではありません。ブニュエルの映画に触れれば分かることですが、メロドラマであってもコメディであっても「シュールレアリスム」であっても、彼の映画は同じようにして欲望が連鎖することで機能します。
HK 
 すべてが『昼顔』のようなシステムということですか。
JD 
 そうです。その作品からわかるのは、ブニュエルの映画においては、曲がり道が重要だということです。ブルジョワの女性が性的な空想を巡らせることから映画は始まります。そうした欲望は娼館を訪れることですぐに実行されます。そして、娼婦になった後も、様々な状況において欲望が実現されます。しかし、ブニュエルにおいては、エロティシズム であってもサディズムであっても、下品になることはありません。彼の映画における欲望は、限度をわきまえているのです。欲望は欲望として存在し続けるのです。
HK 
 スプラッター映画やポルノ映画みたいにはならないということですね。
JD 
 そのような映画は、観客の見たいという欲望によって制作され行き着くところまで行き着いてしまいした。私の話しているブニュエルの欲望とは、映画の登場人物たちの持つ欲望です。

   〈次号につづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテーク・ブルゴーニュ)
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