「神国」の残影 非文字資料研究叢書2 書評|稲宮 康人( 国書刊行会 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年2月1日 / 新聞掲載日:2020年1月31日(第3325号)

「神国」の残影 非文字資料研究叢書2 書評
日本という〝くに〟の探求
「海外神社」跡地写真と論考、解説

「神国」の残影 非文字資料研究叢書2
著 者:稲宮 康人、中島 三千男
出版社: 国書刊行会
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 「日本の神」は土地に付くものだと考えられがちである。山や海を畏怖するアニミスティックな信仰は、地域に集住する氏族ごとの氏神となり、やがて氏族を超えた共同体を守る神になっていた。一方、ヤマト王権を成立させた天皇家は、一族の系統と、彼らが支配する「国」の成立にかかわる神々を創出したのである。

平安時代中期に『延喜式』の神名帳が編纂されて各地の神々の戸籍が初めて成立した。この神名帳に記載された神々も、氏神や地名を冠した神が多く、神話の神が列島中に浸透していたとは言えない。

中世から近世にかけて各地の名神は分霊、分祀、勧請されていった。その際にも祭神が意識されたわけではなく、信仰の対象はあくまでも地名にもとづく神だった。つまり、記紀の神々を祭神として祀ることに積極的になったのは、「帝国」の成立を神話によって物語化するようになった明治以降のことであり、日清・日露を挟み、「帝国」がその版図を広げていく日中戦争、太平洋戦争期に活況を呈したのである。こうして創建されたのが本書で紹介される「海外神社」である。

大日本帝国は、移住した邦人の安穏祈願のため、また版図拡大の皇民化政策として、台湾や朝鮮半島、南洋群島、満洲国、東南アジアなどに、一七〇〇余社に及ぶ神社を創建していった。写真家の稲宮康人は一〇年をかけて一四の国と地域、二〇〇社にのぼる海外神社の跡地を撮影、本書には4×5インチの大判フィルムカメラによる八〇社、八二点の写真を収録している。「海外神社」は日本の敗戦とともにほとんどが廃絶した。現地人による放火や略奪、なかには日本人が破却した場合もあったという。その後の経過をたどると、一部が利用され、再建されたものもあるらしい。

本書には明治以降に作られた国内神社の写真とデータも収録している。こうした身近な神社の創立の経緯や祭神の選定も、海外神社とともに注目すべきことだろう。評者も最近、歴代天皇を祭神に祀る神社をアイロニカルに紹介したばかりだ(現代ビジネス「令和最初の初詣には『天皇を祀る神社』をおすすめする」二〇一九・一二・三〇)。

海外神社跡地の調査を続けてきた歴史学者・中島三千男の論考「海外神社及びその跡地について」、稲宮が付した巻末の「各神社解説」は詳細で読み応えがある。解説には神社ごとに絵葉書や資料によって、信仰がまだ生きていた当時の写真も添えられる。巻頭のカラー写真とこの解説を往復しながら読むことで、読者の問題意識は高まるに違いない。

大日方欣一による「〝くに〟という主題――写真家稲宮康人の探求」は懇切な作家論であり、この写真集成立の背景、稲宮の撮影動機が説明される。一方で、稲宮が撮影した静謐な跡地写真を〈民俗〉を被写体にした日本写真史上の作品群のなかで位置づけ、あるいはソーシャル・ランドスケープ(批評的風景写真)としてどのように評価すべきかなど、本書の刊行はさまざまな課題を背負ってもいる。
この記事の中でご紹介した本
「神国」の残影 非文字資料研究叢書2/ 国書刊行会
「神国」の残影 非文字資料研究叢書2
著 者:稲宮 康人、中島 三千男
出版社: 国書刊行会
「「神国」の残影 非文字資料研究叢書2」は以下からご購入できます
「「神国」の残影 非文字資料研究叢書2」出版社のホームページはこちら
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