スティル・ライフ 書評|池澤 夏樹(中央公論新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞
更新日:2020年1月31日

私の存在意義を見出してくれたような気がした

スティル・ライフ
著 者:池澤 夏樹
出版社:中央公論新社
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 「この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。」「世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。」「きみのなかにも、一つの世界がある。君は自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。」「大事なのは、二つの世界の呼応と調和をはかることだ。たとえば、星を見るとかして。」これは、物語の冒頭に出てくる文章だ。哲学的な文章で解釈が少し難しかったが、本を開いた瞬間から心が持っていかれた。自分中心に世界は回っていなくて、私は誰でもなく独りであって、大切なことは自分の想像する世界とその外にある世界を星を見るように調和すること。
想像が好きで、表現したい、と思う気持ちが年齢を重ねるごとに強くなる私は、周りからどう思われているのかある日気になって友達に聞いてみた。「こはちゃんワールドってあるよね」との返事だった。私にとってこの言葉は誉め言葉だった。だけど、これが正しい答えなのかがわからなかった。この本を読んで、私の存在意義を見出してくれたような気がした。
今回は、第98回芥川賞を受賞した池澤夏樹さんの『スティル・ライフ』を選んだ。
主人公“ぼく”は、アルバイト先でミスをし、上司に怒鳴り散らされてしまったところを、ぼくより少し後に入ってきた佐々井が、責任を取ってくれたお礼をするため、佐々井をご飯に誘い、仲を深める。

ぼくは、佐々井に、仕事を辞め、株を扱う事業を始めるので三カ月の間だけ一緒にやってみないか、と誘われて、一緒に仕事をするように。宇宙や天気、素粒子などの難しい話を熱心に語る彼、周囲の動きを冷静にキャッチし、株事業を成功させるなど、様々な知性的な姿を見せる佐々井は、約束だった三カ月を迎え、ぼくに衝撃の告白をして去ってしまう―。何故、株の仕事を急に始め、ぼくを三か月間だけ雇ったのか。疑問には思っていたが、佐々井はすごく知的で誠実な人だと思っていたのでその告白の内容は思いもしていなかった。だけれども、嫌な気分にはならず、良い結末を迎えられたと感じた。

私は読書も好きだが、天文学や気象学も同じくらい好きで興味がある。頻繁にプラネタリウムにも足を運び、星がきれいに見えるところへは旅行にも出かける。星の魅力は、とても綺麗で未知なところだ。飽きることなく永遠と見ていられる星空の光は何億年も昔の光で、肉眼でみることのできるほとんどの星は地球くらい、またはそれ以上に大きい。ありえないようなことが現実に起きていて、それにはちゃんとした理論があって、紛れもない真実だと教えてくれる神秘の世界。星空を見ると確かに、遠く遠く自分とは違う外の世界を見ているような気がする。だから私も佐々井の話が面白くて一つ一つの台詞が興味深かった。
また、冒頭のような語り口はなかなか普段私が読む小説には出てこないが、気づかされる、想像させられることが多く、好きな雰囲気の文章だった。池澤さんは、小説だけではなく、随筆や書評、詩、翻訳まで手掛けている。久々に星の勉強をして、いろいろな池澤さんの文章をじっくり楽しみたいと思う。

イルミネーションが宇宙の中みたいでした!
この記事の中でご紹介した本
スティル・ライフ/中央公論新社
スティル・ライフ
著 者:池澤 夏樹
出版社:中央公論新社
「スティル・ライフ」は以下からご購入できます
「スティル・ライフ」出版社のホームページはこちら
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