神の書 イスラーム神秘主義と自分探しの旅 書評|アッタール(平凡社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月8日 / 新聞掲載日:2020年2月7日(第3326号)

神の書 イスラーム神秘主義と自分探しの旅 書評
「煩悩」からの解放のために
膨大な逸話を積み重ねて説く

神の書 イスラーム神秘主義と自分探しの旅
著 者:アッタール
翻訳者:佐々木 あや乃
出版社:平凡社
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 詩と伝説の国イランより。12世紀のペルシア神秘主義文学を代表するアッタールの詩集が完訳された。人間が欲情、幻想、自尊心や立身出世、生への執着、支配欲や金銭欲といった「煩悩」からの解放のためにいかに生きるべきか、膨大な逸話を積み重ねて説いた作品である。エピソードには王侯貴族から社会の底辺まで、様々な人や物までが登場し、読み物としても面白い。

7世紀半ば、西アジアではイスラーム勢力が版図を広げ、イラン高原を中心に広く支配していたササン朝ペルシア帝国が崩壊した。だが、イランはイスラーム化したものの、アラブ化しなかった。イラン文化とイスラーム文化の融合体としてのペルシア文学、伝統に基づいた宮廷文学が発展した。また徐々に厭世的傾向のある神秘主義思想を説く文学がペルシア文学の核をなし、華となっていく。

アッタールはペルシア神秘主義詩人で、薬種商として医業にも携わっていた。本書は私たちに問題を投げかける。「この世に存在するものの価値は何か」「人間の深遠なる願いは何か」「最後に死を迎え消滅するこの世において、この世に存在するものへの執着から解放されるために何をすべきか」「この世に生を享けた人間は、日々何を思い、何を愛おしみ、何を探求しつつ人生を歩めばよいのか」。

訳註者の佐々木あや乃氏によると、本書には「社会の様々な人物像が真実の求道者、あるいは完全な人間の象徴として登場している」。世の中で下に見られがちな人々―老婆、女男、物乞い、犯罪者、放蕩者、非ムスリム。イスラームで禁忌とされる犬、小動物、土塊や焼片等、通常大した価値も見出せないようなものに対してまで、アッタールは温かな眼差しを向け、自らの人間的かつ神智的な目的を明かすために彼らを登場させている。弱いもの、見落とされがちな人物や動物や事物の価値を押し上げて提示したのは、アッタールの許へ診察や薬の処方に訪れる人々との間に自然と生まれた、心と心の通じ合うコミュニケーションに裏打ちされたものではなかっただろうか。

ところで、筆者はある舞踊家との出会いがきっかけでペルシア古典文学の虜になった。登場人物の描写が悩ましかった。生命力溢れる草木や花で王妃が見立てられる。「糸杉のようにのびやかな立ち姿、スミレのような黒髪、アーモンドのような瞳、ザクロのような胸…」。

本書には「さとうきびのような王子」が登場する。どんな人物なのか?雨風にも日照りにもめげないタフガイだろうと想像していると、読了間際の晩、西の空から神の囁きが聞こえた。「王子さまは甘いマスク、髭が生えてくる前の美少年ですよ」。
この記事の中でご紹介した本
神の書 イスラーム神秘主義と自分探しの旅/平凡社
神の書 イスラーム神秘主義と自分探しの旅
著 者:アッタール
翻訳者:佐々木 あや乃
出版社:平凡社
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