沖縄 記憶と告発の文学 目取真俊の描く支配と暴力 書評|尾西 康充(大月書店 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月8日 / 新聞掲載日:2020年2月7日(第3326号)

沖縄 記憶と告発の文学 目取真俊の描く支配と暴力 書評
沖縄現代文学の優れた批評
目取真文学を題材に

沖縄 記憶と告発の文学 目取真俊の描く支配と暴力
著 者:尾西 康充
出版社:大月書店
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 刺激的な文学評論集が出た。著者尾西康充氏には、中国山西省に従軍した田村泰次郎に関する研究『田村泰次郎の戦争文学─中国山西省での従軍体験から』がある。田村も配属された山西省の独立混成第四旅団は、その後改編されて沖縄に移動したが、山西省では中国人慰安婦、沖縄では朝鮮人慰安婦を慰安所に配置していたという。本書執筆の動機は、このような山西省から沖縄へと続く戦時暴力の連鎖の検証にあると著者は述べる。戦争文学を継続して研究する著者のモチーフは一貫していて、それは本書においては、常に地政学的に緊張状態を強いられてきた沖縄社会の葛藤を描いた文学作品を分析することにある。

もう一つのモチーフは、民族や国民といった人間を総称する呼称への意識化である。沖縄の「反復帰論」や「琉球独立論」の論点を踏まえウチナーンチュやヤマトンチュなどの呼称に関して、国家への同化欲望やイデオロギーに回収されてしまうのではなく〝規格化された国民〟の汚名を返上する意識化が言われている。一見、ふたつのモチーフは無関係のようにも見えるが、そうではない。著者の問題意識は、国家の暴力に対する異議申し立てとともに共同体との格闘をもテーマとする目取真文学を分析することによって、戦時暴力の問題や沖縄戦の記憶を考察すること、そして国家によって仕組まれた幻想──安易な帰属感とその裏返しの他者排除の思考を打ち砕くことにある。国家による民族支配を考えるとき、本書の分析にユダヤ人のホロコーストの経験を補助線としていることも注目されよう。

このような意図によって書かれた本書は二部立ての構成で、一部には目取真俊の「風音」「水滴」「魂込め」「眼の奥の森」「群蝶の木」「虹の鳥」が取り上げられている。二部では霜多正次「虜囚の哭」「沖縄島」、大城立裕「棒兵隊」、大城貞俊「K共同墓地死亡者名簿」、又吉栄喜「ギンネム屋敷」、真藤順丈「宝島」が扱われた。どの論考も読み応えがあり、沖縄文学が示す課題が浮かび上がってくるが、本書から見えてくるのは、沖縄の問題を考えることは翻って日本の問題を考えることでもあるということだ。沖縄米軍基地の県外移設──本土引き取り論を机上の空論として目取真俊が鋭く衝いたことは、本土に生きる者に突きつけられた根源的な批判であった。また、本書で繰り返し注目されているのは、目取真作品のなかの買弁的ウチナーンチュの存在だが「ヤマトゥから権力を分与」されたウチナーンチュが同胞を支配するという構造は、ホロコーストにおけるユダヤ人警察やカポを想起させる。このことは、言語の問題にも通じていて、ウチナーンチュが主体的に思考するにはヤマトの言語や論理で沖縄を支配しようとする「植民地の知識人」的立場から身を引き離す必要があるという。さらにアウシュヴィッツと沖縄とが相互に論じられている「眼の奥の森」を扱った第五章では、「赦す」「赦さない」そして「赦せない」ことをどう捉えるかが問われている。筆舌に尽くしがたい国家的暴力を決して赦すことはできない。同時に、その果てに何が生まれてくるのかを考えるとき、アウシュヴィッツの行き着いた先のひとつがイスラエルであったことを思い出すと「琉球独立論」がその轍を踏むことのないようにという問題提起も受け取れた。

本書は目取真文学および沖縄文学の優れた批評でありつつ、ここに提示されたテーマは、辺野古新基地問題などにも通じるいずれも喫緊の課題を含むものに他ならない。文学批評の射程が届く距離の確かさを改めて思わせる著作である。
この記事の中でご紹介した本
沖縄 記憶と告発の文学 目取真俊の描く支配と暴力/大月書店
沖縄 記憶と告発の文学 目取真俊の描く支配と暴力
著 者:尾西 康充
出版社:大月書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「沖縄 記憶と告発の文学 目取真俊の描く支配と暴力」出版社のホームページはこちら
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