ポルトガル短篇小説傑作選 よみがえるルーススの声 書評|ルイ・ズィンク(現代企画室)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年2月8日 / 新聞掲載日:2020年2月7日(第3326号)

ポルトガル短篇小説傑作選 よみがえるルーススの声 書評
豊饒な物語を産出する、 ポルトガル文学の現在

ポルトガル短篇小説傑作選 よみがえるルーススの声
著 者:ルイ・ズィンク
翻訳者:黒澤 直俊
出版社:現代企画室
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 ポルトガルに古くから伝わる装飾タイルをあしらった表紙をめくると、そこには同国を代表する十二人の作家たちが紡ぎだす物語がぎっしり詰まっている。「ぎっしり」というのは決して誇張ではない。「主に二十世紀後半以降に発表された」短篇の中から、ポルトガルの現代文学に精通した編者たちが「ポルトガル文学の入り口としてはまたとない一冊」となるよう選び抜いた作品が収められているのだから。

二〇一七年から毎年秋に東京で開催されているヨーロッパ文芸フェスティバルに登壇したヴァルテル・ウーゴ・マインやリカルド・アドルフォ、そして、二〇一九年に『ガルヴェイアスの犬』(新潮社)で日本翻訳大賞を受賞したジョゼ・ルイス・ペイショットらの作品が、わずか二〇〇ページ弱の中にひしめき合っている。リアリズム、歴史小説、ブラックユーモア、私小説まで、ポルトガルはヨーロッパの小国に過ぎないかもしれないが、計り知れないほど豊饒な物語を産出していることを本書は象徴している。 

先陣を切るのが、無理矢理アフリカに送り込まれた兵士を描く「少尉の災難――遠いはるかな地で」。主人公となる少尉はあえて何も考えないように努めることで日々をやり過ごしているが、その非日常の中の日常は「金属的な乾いたカチッという音」によって一変する。地雷を踏んでしまったらしい。足を離したら爆発するという極限状態において、当の少尉や仲間の兵士たちは何を思い、どう行動するのか。普遍的な人間の心理を巧みに描く一方で、私たちがよく知るあの戦争とは別の戦いがポルトガルの歴史には存在することを教えてくれる。

しかし、その余韻に浸る間もなく物語は続く。ヨーロッパに移住してきた黒人一家の姿を先住民の色眼鏡を通して描く「ヨーロッパの幸せ」、湊かなえを思わせる一人称の語りで美容院での世間話とは思えないほどブラックな展開を見せる「美容師」、四十年もの間母親によって軟禁状態にされていた女性の独白でありながら、悲惨さを感じさせないほど詩的でうつくしい言葉で読者を圧倒する「川辺の寡婦」など。

そしてトリを飾るのが、日本に住むリカルド・アドルフォならではの「東京は地球より遠く」。エッセーではないかと錯覚させるほどのリアリティーをもって、一歩も二歩も引いた独自の視点から日本のサラリーマンの懐事情や通勤風景などを描く。

傾向を一言で表すことなど到底できないほどバラエティに富んだ作品が並んでいるものの、どの作品にも選定から翻訳、さらには文中の注釈に至るまで、ポルトガル文学を日本に紹介したいという編者たちの思いが感じられる。各短篇のタイトルをめくると、作品の前に作者の略歴が記されているのも「入り口」をくぐったばかりの者にはありがたい心遣いだ。

近年はこれまでなじみの薄かった国の作品も続々と日本語で読めるようになってきた。次はどんな物語が産み落とされるのか、しばらくポルトガル文学から目が離せない。
この記事の中でご紹介した本
ポルトガル短篇小説傑作選 よみがえるルーススの声/現代企画室
ポルトガル短篇小説傑作選 よみがえるルーススの声
著 者:ルイ・ズィンク
翻訳者:黒澤 直俊
出版社:現代企画室
以下のオンライン書店でご購入できます
「ポルトガル短篇小説傑作選 よみがえるルーススの声」出版社のホームページはこちら
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