鍵のない夢を見る 書評|辻村 深月(文藝春秋 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2020年2月8日 / 新聞掲載日:2020年2月7日(第3326号)

辻村深月著『鍵のない夢を見る』

鍵のない夢を見る
著 者:辻村 深月
出版社:文藝春秋
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 私はこの本以上に心がぞわぞわし、鳥肌が立つような作品にこれまで出会ったことがない。『鍵のない夢を見る』は第147回直木賞を受賞した辻村深月による小説であり、「美弥谷団地の逃亡者」「仁志野町の泥棒」などの5つの短編から構成されている。本書の特徴としては、私たちが普段ニュースや新聞で目にする事件を、犯罪者に深くかかわりのある女性たちの視点から描いていることが挙げられる。作中の女性たちは、閉塞感の漂う田舎で思い描いていた理想とは違う生活を送っており、抜け出したいと思ってはいるものの、実際には何もできずに過去を後悔したり、友人を羨んだり、周りを見下したりすることで現実逃避をしているという共通点をもつ。だがそんなどうしようもなく自己中心的で、女性の醜さの集合体のような登場人物たちの心理描写には、読み手の心に突き刺さるものがあり、自分の中にも長い間蓋をしてきた感情が湧き上がってくる錯覚に陥る。自分の内面に潜む、誰にも知られたくない部分が露わにされていく感覚を味わうことができるのも、この作品の魅力の一つであると言える。

その中でも「芹葉大学の夢と殺人」は私が最も好きな話で、同じ大学のデザイン工学科で出会った雄大と未玖という男女の話である。夢を抱いて大言壮語する雄大に恋をしてしまった未玖は、絵本作家になるという夢を諦めて地元に戻り、教員の道に進むも新しい出会いもないままであった。そんな中でいつまでも夢を追いかけて叶わず、大学に在籍し続ける雄大の、別れてからも友達でいようという言葉に、遠距離での関係を続け、彼の欲しがるままに身体の関係を持ち続けてしまう。先の見えない恋愛にしがみついてしまう未玖の姿が、結婚に憧れる女性の焦りと相まって非常に現実的なものに感じられる。どうあがいても雄大から離れられない自分にも、叶いもしない夢を追い続ける雄大にも絶望した未玖の、

「たった一つ。自分以外の者に執着すればいい。夢以外に失うのが嫌な、大事な何かを作れば、誰かを愛しさえすれば、幸せを感じることが、きっとできる。それは、私じゃダメだったのか。」

という切実な想いは、報われない恋や辛い恋愛をしたことのある読み手の胸を深く抉るであろう。「芹葉大学の夢と殺人」は他の四話とは毛色が違うものの、どうしようもない恋愛から抜け出すことのできない女性の葛藤する姿をリアルに描いており、愛に溺れた未玖の末路は衝撃的なものである。

『鍵のない夢を見る』というタイトルは、息の詰まるような田舎で暮らす女性たちが、ささいなきっかけから日常や常識からずれていく姿をうまく表現している。読み手としては、登場人物に対して「どうしてその選択肢を選んでしまうのか」ともどかしく思うところもあるが、主人公の気持ちや行動と読者の見えているもののギャップがこの作品の面白さでもある。少しずつ登場人物の人生の歯車が狂っていく様子は、全くの他人事だとは思えず背筋がぞくっとする。そんな形容しようのない気持ち悪さを面白いと思える人には心からおすすめできる一冊である。
この記事の中でご紹介した本
鍵のない夢を見る/文藝春秋
鍵のない夢を見る
著 者:辻村 深月
出版社:文藝春秋
「鍵のない夢を見る」は以下からご購入できます
「鍵のない夢を見る」出版社のホームページはこちら
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