評伝 西山弥太郎 天皇とよばれた男 書評|濱田 信夫(文眞堂)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月8日 / 新聞掲載日:2020年2月7日(第3326号)

評伝 西山弥太郎 天皇とよばれた男 書評
「神戸にはこんな偉い経営者がいた」
現在の便利な消費生活に至る道のりを陰で支えた人物

評伝 西山弥太郎 天皇とよばれた男
著 者:濱田 信夫
出版社:文眞堂
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 本書は川崎製鉄(現・JFEスチール)の初代社長・西山弥太郎の学術的評伝である。

著者の濱田信夫は、多くの鉄鋼企業およびそれらの代表的経営者を対象に経営史・企業家史研究を積み上げてきたが、川崎製鉄と西山弥太郎は著者が最も強い関心と執念をもって取り組んだ企業と企業家といえる。

なぜ川崎製鉄なのか。なぜ西山弥太郎なのか。 まず一つに、西山率いる川崎製鉄が敗戦直後の混沌とした復興期のうちに、当時の鉄鋼業界の巨人たる八幡製鉄・富士製鉄(いずれも現・日本製鉄)に対抗すべく、かつ業界での自らの真っ当な姿での存立を賭け、「無謀」との嘲笑や「業界秩序を乱す」との批判ものかは新機軸に富む新鋭・千葉製鉄所の建設を敢行したことがあろう。それは単に、川鉄一社の成長に繋がっただけではないことが二つ目。銑鋼一貫体制(鋼鉄だけでなく、その原料の銑鉄もつくることができる)を構築していた八幡・富士の圧倒的優位にあった業界構造に斬り込んで戦後鉄鋼業界の激しい競争を生み出し、それは戦後に飛躍的発展を遂げた自動車など重厚長大型産業の土台となった。三つ目に、それに至る意思決定を、鉄鋼技術エキスパートの視点から当然の如く行った西山弥太郎の論理性と胆力が挙げられよう。世間一般の常識に囚われたマインドでは、そうした意思決定行動は尋常一様には映らない。そこもまた、人を惹きつける西山弥太郎の魅力といえよう。

かつて鉄は「産業の米」とよく言われていた。米(ごはん)が食卓にあることに殊更の特別感を抱く人は、もはや多くはなかろう。鉄も似ている。鉄鋼産業のイメージは、消費財産業やサービス産業と比べて地味である。さらに、その中の西山弥太郎という人物も、著者によれば「どこまでも本業の鉄ひとすじであり、自らを誇示することもなかったし、対外的な活動にも関心を示さなかった」という。現在の便利な消費生活に至る道のりを人知れず陰で支えた人物がいたことを、評者のような後世の日本人は忘れてはならない。

神戸大学で若き日の著者が授業を受ける中、教授が発した「神戸にはこんな偉い経営者がいた」という言葉が、西山と著者の最初の出会いだったという。それもひとつの縁となり、著者は川鉄で社会人生活のスタートを切った。著書の川鉄マン、鉄鋼マンとしての豊富な経験と知識は、本書で次々と繰り出される資料の選定や、鉄鋼産業の「玄人」でなくてもわだかまりを抱えることなく安心して読み進められる本書の論理性と親切さに、大いに寄与しているはずである。

本書は「つまみ食い」ではなく、西山の最晩年に至るまでの人生そのものに向き合う姿勢でつくられている。そのため、西山の代名詞「千葉製鉄所」だけではない、その裏面や前後における彼の「経営者」としての苦闘、葛藤、そして知られざるセンスも伝えてくれる。

鉄鋼産業への関心・造詣の深浅に関わらず、多くの人に読んでいただきたい一冊である。
この記事の中でご紹介した本
評伝 西山弥太郎 天皇とよばれた男/文眞堂
評伝 西山弥太郎 天皇とよばれた男
著 者:濱田 信夫
出版社:文眞堂
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「評伝 西山弥太郎 天皇とよばれた男」出版社のホームページはこちら
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