2016年回顧 東洋史 実証を重んじる堅実な研究から着実な成果が|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年12月23日 / 新聞掲載日:2016年12月23日(第3170号)

2016年回顧 東洋史
実証を重んじる堅実な研究から着実な成果が

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まず中国史から今年の成果を振り返ってみよう。佐藤信弥『周―理想化された古代王朝』(中公新書)は、出土文物から文献史学を検証し、西周の実態に迫った。伝統的な中華帝国の行動原理を「天下」と「天朝」から読み解いたのが、檀上寛『天下と天朝の中国史』(岩波新書)。現代中国の行動を理解する一助ともなろう。国家と社会との関係については、山本真『近現代中国における社会と国家』(創土社)が、清末・民国から人民共和国までの福建を舞台に描き出した。

宗教史からの成果もあった。エリック・シッケタンツ『堕落と復興の近代中国仏教』(法蔵館)は、日中の近代を仏教の視点から見直した刺戟的試み。近代の日中仏教の邂逅により日本人仏教者は、中国仏教は堕落し日本仏教のみが正統性持つ、と考えるに至ったとする。同じく日中関係では、嵯峨隆『アジア主義と近代日中の思想的交錯』(慶應義塾大学出版会)が、アジア主義に関連した中国側の動きをも検討した。

石川禎浩『赤い星は如何にして昇ったか』(臨川書店)は、エドガー・スノーの『中国の赤い星』以前に形成されていた初期の毛沢東イメージを検討した。冒頭の「毛沢東」肖像には誰もが驚愕しよう。

久保亨・加島潤・木越義則『統計でみる中国近現代経済史』(東京大学出版会)は、豊富な統計と簡潔な解説で、専門外にも配慮した好著。小浜正子編『ジェンダーの中国史』(勉誠出版)は、悪女・宦官から同性愛・少子化まで、ジェンダーの視点から中国史を捉え直すことを試みた。

台湾史では、赤松美和子・若松大祐編著『台湾を知るための60章』(明石書店)が、政治から文化まで、歴史を踏まえて概説した。

大谷通順『麻雀の誕生』(大修館書店)は、麻雀の歴史が実は百年に満たず、その流行の背景には米国のコマーシャリズムが大きな役割を果たしていたことを明らかにした。

朝鮮史では近現代史の基本書となる糟谷憲一・並木真人・林雄介『朝鮮現代史』(山川出版社)を得たほか、酒井裕美『開港期朝鮮の戦略的外交』(大阪大学出版会)及び李穂枝『朝鮮の対日外交戦略』(法政大学出版局)が、共に近代の外交における朝鮮の主体性に着目し、従来の研究に修正を迫った。同時期の朝鮮開港については、石川亮太『近代アジア市場と朝鮮―開港・華商・帝国』(名古屋大学出版会)も検討を加え、華商の活動に注目して東アジア史の中に位置づけた。同じく地域を跨いだ華人の動向については、貞好康志『華人のインドネシア現代史』(木犀社)が、これまで部外者とされがちだった、インドネシア国民統合の過程での華人に注目し、その軌跡を描いた。

イスラーム研究では次の二冊が興味深い。ISが再興したことで注目されたカリフ制だが、そのカリフの権威に頼って政権を立てたブワイフ朝について、橋爪烈『ブワイフ朝の政権構造』(慶應義塾大学出版会)が、これまで注目されてこなかった地方事情にも目を配り、その連合政権的性格を検討した。

秋山徹『遊牧英雄とロシア帝国』(東京大学出版会)は、クルグス(キルギス)の現地有力者に焦点を当て、十九世紀末から二十世紀初頭のロシア支配下の中央アジア遊牧社会を描き、合わせてロシア帝国の重層的支配を明らかにした。

人文社会系の研究をめぐる事情は依然楽観できないが、実証を重んじる堅実な研究から着実な成果が挙げられていることを喜びたい。
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