2016年回顧 西洋史 第一次大戦研究の成果が陸続と発表されて豊作に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年12月23日 / 新聞掲載日:2016年12月23日(第3170号)

2016年回顧 西洋史
第一次大戦研究の成果が陸続と発表されて豊作に

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開戦百周年の二〇一四年以降、日本でも第一次世界大戦研究の成果が陸続と発表されている。今年も豊作の年となった。藤原辰史編『第一次世界大戦を考える』(共和国)は、厳密に学術的な体裁をとったものではないものの、京都大学人文科学研究所の共同研究班メンバーが執筆したエッセイをアンソロジーとしてまとめたものである。他にも、戦時中の風刺画を手がかりに各国の政治・軍事指導者の動向を追ったものとして飯倉章『第一次世界大戦史―諷刺画とともに見る指導者たち』(中公新書)がある。また訳書にはスタンダードな外交史研究として、マーガレット・マクミラン『第一次世界大戦―平和に終止符を打った戦争』(滝田賢治監修・えにし書房)がある。さらに大戦直後のドイツ義勇軍を考察したものとして、今井宏昌『暴力の経験史―第一次世界大戦後ドイツの義勇軍経験1918~1923』(法律文化社)もある。

第二次世界大戦の方でも画期的な成果が出された。前著『ブラッドランド』で一躍世界に名を馳せたティモシー・スナイダーの『ブラックアース―ホロコーストの歴史と警告』(池田年穂訳・慶應義塾大学出版会)は、中東欧地域からの視点を軸にして、大戦前夜からホロコーストにいたるまでの歴史に新たな光を当てたものである。また一〇〇〇頁以上に及ぶ南利明の大著『ナチズムは夢か―ヨーロッパ近代の物語』(勁草書房)は、ルネサンス期における遠近法の発明にまで遡ってナチズムの淵源を追究した独創的な研究である。

ヨーロッパ史研究一般でも興味深い書籍が並ぶ。ヘルムート・ラインアルター『フリーメイソンの歴史と思想―「陰謀論」批判の本格的研究』(増谷英樹・上村敏郎訳・三和書籍)は、フリーメイソンに関する真摯な学術的研究であるとともに、現代世界で流布している怪しげな陰謀論の生成過程を歴史的に考察したものである。ミシェル・ロクベール『異端カタリ派の歴史―十一世紀から十四世紀にいたる信仰、十字軍、審問』(武藤剛史訳・講談社選書メチエ)は、選書メチエには珍しく七〇〇頁を越える大著であり、いまだ謎の多い中世最大の異端カタリ派に関する研究の決定版ともいうべき成果である。また同じく中世史の成果としては、佐藤彰一『贖罪のヨーロッパ―中世修道院の祈りと書物』(中公新書)がある。前著『禁欲のヨーロッパ』の続編ともいうべき修道制の社会史研究で、円熟味を増した著者の筆致に読者は思わず引き込まれる。

歴史叙述のあり方の再考を今一度促す書籍も出た。リン・ハント『グローバル時代の歴史学』(長谷川貴彦訳・岩波書店)は言語論的転回以降の危機的状況を踏まえつつ、今後の歴史学の展望を示す。カルロ・ギンズブルグ『ミクロストリアと世界史―歴史家の仕事について』(上村忠男訳・みすず書房)は、歴史学を刷新した著者による理論的・実証的研究成果のアンソロジー。
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