小林康夫インタビュー(聞き手:渡辺小春) 本は世界の秘密の扉を開ける鍵 『若い人のための10冊の本』(筑摩書房)を巡って|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年2月14日 / 新聞掲載日:2020年2月14日(第3327号)

小林康夫インタビュー(聞き手:渡辺小春)
本は世界の秘密の扉を開ける鍵
『若い人のための10冊の本』(筑摩書房)を巡って

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哲学者の小林康夫氏が『若い人のための10冊の本』(ちくまプリマー新書)を刊行した。主に十代を想定して書かれたメッセージを、現役高校生はどう受け取るのか。「書評アイドル」として、読書人ウェブで芥川賞受賞作を読む連載をしている、現在高校一年生の渡辺小春さんと、青山学院大学の小林氏の研究室を訪ねた。そして小林氏に本書について、本を読むということについて、イニシエーション、自分とは何か、愛とは何か、など大切な話を伺った。 (編集部)
第1回
本と孤独と世界の秘密

小林 康夫氏
小林 
 はじめまして。小春さんと呼ばせていただいていいですか? 
渡辺 
 はい、よろしくお願いします。
小林 
 僕たちはたったいま顔を合わせたばかりで、あなたがどういう人か分からないので、ヒントが欲しいんです。いまの段階であなたにとって、人生で一番影響力があった、一番強い印象を与えた、そういう「私の一冊」を教えてもらえますか。
渡辺 
 私の一冊……。
小林 
 いきなり無理難題をいうのが、僕のやり方(笑)。この瞬間に小春さんの頭の中に、どんな本が出てきたのかを知りたいんです。
渡辺 
 パッと浮かんだのは、上橋菜穂子さんの『獣の奏者』です。
小林 
 それはあなたにとって、どんな本?
渡辺 
 小学生のときに、学校の図書室で借りて読みました。表紙の絵に惹かれて選んだのですが、すぐに物語に夢中になって。単行本を分冊した「青い鳥文庫」というレーベルで読んだので、図書室に何度も通っているうちに、司書の先生と話すようになり、私が本を読むことが好きになったきっかけの一冊だと思っています。
小林 
 本の内容についてはどうですか。小春さんにその本は、どんな感覚を起こさせました?
渡辺 
 この本はファンタジー物語で、闘蛇や王獣という、想像上の生き物が出てきます。主人公のエリンのことは、初めはあどけない少女だと思っていたのですが、闘蛇の世話係だったお母さんに、とても悲しい事件が起こって、エリンが生きていた世界がガラッと変わってしまうんです。でもいい人に救われて、エリンは命拾いします。そして周囲の人々に助けてもらいながら、成長していきます。エリンは世界の謎について深く考えるタイプで、おとなしいけれど強い女の子です。私は強い少女像に憧れをもっていた気がします。そして本の中に、現実ではない世界がパーッと広がっていく感覚が、とても印象的で。いまでもファンタジーや不思議な世界に、自分が取り込まれていくような感じを味わうことが大好きです。
小林 
 お話を聞いて、私の『若い人のための10冊の本』と小春さんの世界で、既に対話が始まっていると思いました。というのは、小春さんが「ファンタジー」と呼ぶものが、本というものの根幹であると、僕はこの本の中でいい続けているからです。

小春さんがファンタジーという森に入り込んで、違う世界の人々や不思議な生き物、衝撃的な出来事に出会っていく――そのとき本の世界に入り込みながら、同時に小春さんの世界をつくっていると思うんです。人はこの現実社会とは異なる、もう一つの自分だけの世界も生きている。僕は十冊の中に「ゲド戦記」を取り上げていますが、著者のル=グウィンは「読んでいる読者が本を作る」、読むとは「創造的な行為」だといっています。
渡辺 
 小林さんの本の最初に、本とは「世界の秘密の扉を開けてくれるかもしれない「鍵」」だと書かれていましたね。それから、「人間が言語をもち、言語を通して世界に意味を与え、世界を解釈し、世界をつくりあげる。そのことと、人が孤独であることは、切り離せない」ともありました。
小林 
 そうです。本と孤独と世界の秘密には、深いかかわりがあるのです(笑)。言葉を手に入れてしまった人間には、誰もが必ず通過しなければならない「試練」がある。それが通過儀礼(イニシエーション)と呼ばれるものです。サーッと一瞬で通過する子もいれば、足を取られて長い間留まることになる子もいるけれど、みな必ずそこを通過して大人になる。

この『10冊の本』は、人間として生まれて、言葉を獲得し、ある日この宇宙に自分はポツンと一人だなぁ、と感じるところから出発して、どうしたら大人の世界に入っていけるのか、そのために助けになる本を選ぶことができれば、と思って書きました。僕自身どのようにそこを通過したのか、過去に問いかけながら書いた本です。
渡辺 
 いろいろな本を読む中で「自分」が形成され、誰もが経験するイニシエーションを通り抜けることができたとき、大人になることができるということですか。
小林 
 そう、つまり「自分」にはならなくちゃいけない、ということですね。私は生まれたときから自動的に「自分」で、そのまま「自分」を続けていけばいい、というわけではないんです。奇妙ですね。

幼いころは親の世界に庇護されているけれど、大人になるためにはそこから抜け出して、生きていくためのいろいろなことを一つ一つ吸収しながら、自分で「自分」をつくっていく必要がある。

言葉を変えるとそれは、「冒険する」ということかな。自分をつくるために冒険する覚悟。このことさえ学べれば、どこの大学に行こうが行くまいが、何をしようが、生きていけると僕は思っています。
渡辺 
 冒険ですか。
小林 
 ファンタジーって冒険物語ですよね。ファンタジーでは、人間にとって最も大事なことがストレートに語られることが多いのです。中でも一番大事なことは、小春さんが先ほどいったように、主人公が世界と出会い、いろいろな試練をどうにかして乗り越えて、最終的に自分にとっての重大な決断をする。その選びとる力を持てるかどうか。光を選ぶか、闇を選ぶか、さあどっちだと突き付けられて、たとえ犠牲になっても、私は光を選ぶ、といえるかどうか。その覚悟について物語を通して教えてくれています。そしてファンタジー以外の本も、書き方が違うだけで、根本は変わらないのだと思います。
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この記事の中でご紹介した本
若い人のための10冊の本/筑摩書房
若い人のための10冊の本
著 者:小林 康夫
出版社:筑摩書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「若い人のための10冊の本」出版社のホームページはこちら
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