2016年回顧 中世史 地域社会に焦点を当てる 一族・武士団に焦点を当てた研究も盛んに|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年12月23日 / 新聞掲載日:2016年12月23日(第3170号)

2016年回顧 中世史
地域社会に焦点を当てる
一族・武士団に焦点を当てた研究も盛んに

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本年は全期を通じて、近年になく地域社会に焦点を当てた著作が多かった。たとえば特定の地域を対象としたものに、遠藤ゆり子『戦国時代の南奥羽社会』(吉川弘文館)・小川弘和『中世的九州の形成』(高志書院)・五味克夫『鎌倉幕府の御家人制と南九州』(戎光祥出版)・桃崎有一郎『室町政権の首府構想と京都』(文理閣)などがあり、「地域」を書名に冠したものに長谷川裕子『戦国期の地域権力と惣国一揆』(岩田書院)・月井剛『戦国期地域権力と起請文』(同前)・柴辻俊六『織田政権の形成と地域支配』(戎光祥出版)などがあった。とくに荘園・村落史研究会『中世村落と地域社会』(高志書院)に収められた十一本の論文は、多方面から中世村落の様相に迫ろうとする力作が多く読み応えがあり、第Ⅰ部には研究史と課題・参考文献が整理されていて、今後研究を進める際の手引き書としても有用であろう。

また一族・武士団に焦点を当てた研究も引き続き盛んで、戎光祥出版の「中世関東武士の研究」シリーズも継続的・精力的に刊行されたが、それは松島周一『鎌倉時代の足利氏と三河』(同成社)や糸賀茂男『常陸中世武士団の史的考察』(岩田書院)などからも明らかなように、地域社会への関心の高さから来るものといえよう。そのほか高橋秀樹『三浦一族の研究』(吉川弘文館)・河村昭一『南北朝・室町期一色氏の権力構造』(戎光祥出版)や湯浅一族を素材とした高橋修『信仰の中世武士団』(清文堂出版)などがあった。

近年新たなスタイルとして定着してきた、シンポジウムや共同研究などの結果を整理したものには、水運に関わる成果が目立った。中世都市研究会『日本海交易と都市』(山川出版社)は同会二回分の大会報告をまとめたものであり、市村高男他『中世港町論の射程』(岩田書院)は、過去のシンポジウムの成果を踏まえ、より多様な視点を取り入れている。こうした成果は、最初に発表された場の性格上、設定されたテーマに対して歴史学の枠にとらわれない、多分野からのアプローチが試みられて、刺激を受けることも多い。とくに須田牧子『「倭寇図巻」「抗倭図巻」をよむ』(勉誠出版)は国境も越えて、様々な分野の研究者が論考を寄せている。初心者には見慣れぬ用語が頻出してかなり難解だが、巻頭六十余頁のカラー図版は大きな手助けとなる。私自身は、重要な成果をどこまで理解できたか甚だ心許ないが、今後の倭寇研究に大きな影響を与える一書であることは間違いないだろう。

新書では、岩波新書のシリーズ日本中世史全四巻(五味文彦『中世のはじまり』・近藤成一『鎌倉幕府と朝廷』・榎原雅治『室町幕府と地方の社会』・村井章介『分裂から天下統一へ』)が刊行された。また呉座勇一『南朝研究の最前線』(洋泉社)は、最近軽視されがちな「南北朝期」をテーマとしており、同期を対象とした研究書には、視覚は全く異なるものの中島圭一『十四世紀の歴史学』(高志書院)があった。両書の刊行が「南北朝期研究」活性化のきっかけとなることを願いたい。
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