八重洋一郎を辿る いのちから衝く歴史と文明 書評|鹿野 政直(洪水企画)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年2月15日 / 新聞掲載日:2020年2月14日(第3327号)

八重洋一郎を辿る いのちから衝く歴史と文明 書評
石垣島と詩の闘い
詩人の心境変化を丁寧に追跡

八重洋一郎を辿る いのちから衝く歴史と文明
著 者:鹿野 政直
出版社:洪水企画
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 思想史家の鹿野政直が石垣島の詩人八重洋一郎の評伝に取り組んだ。詩の専門家とは言えない鹿野だが、これまでの八重の詩業を逐行的に引用しながらつぶさに読み取っていこうとする、その努力には頭が下がる。まだ「本土復帰」以前に、離島から留学のかたちで故郷を脱出し東京の大学に入学した八重は哲学や数学に持続的な関心を示しながら、しだいに故郷がかかえる不条理な状況への怒りと蘇ってくる郷愁に想いをこらすようになる。

鹿野はそのあたりの八重の心境変化を丁寧に追跡しているのだが、もともと八重にたいする個人的なシンパシーとして献上した、出版を意図していない原稿だったらしく、いわゆる詩論の体を成してはいない。八重の作品それぞれの抄録と簡単なコメントがつづく。八重の長期にわたる詩人としての営為の全体に疎いわたしとしては便利な紹介にはなっているが、記述がやや平板な印象を受ける。

八重は東京から単身、故郷の古い由緒ある家に戻り、石垣の政治経済状況や人びとの日々の営みに接するあたりから、みずからの出自を強く認識するとともに、太平洋戦争末期における沖縄戦のように、日本政府の「生き餌」としての沖縄そして石垣の命運を思い知らされる。そのことへの激しい憤りが最新詩集『日毒』に結実していることに鹿野は共鳴している。わたしもそのことにまったく同意する。

しかもこの本はわたしともいくらか因縁がある。実際、この本を書くきっかけとなった八重の「南西諸島防衛構想とは何か」という文章はわたしの依頼に応えて八重が書いたものである。さらにひとこと言っておけば、詩集『日毒』を現代詩人賞の候補作品として推薦したのもわたしであり、ほかの六人の選考委員はだれもこの詩集の存在さえ知らなかった。したがって鹿野が書いているように、選考委員会で《この詩集の「ことばの政治性」をめぐって激論を闘わせ》たというのはすこし事情がちがう。選考委員会をつつむ外部から横槍が入ったことと、或る種の純粋言語主義の亡霊によってわずかな差で(三対四で)『日毒』が受賞を逸したことが、わたしにはいまでも残念でならない。わたしは選評で『日毒』を高く評価していることを明言しつつ、《全体にことばの政治性がナマの怒りに流れすぎてしまうという難点》も指摘したのは事実である。このあたりが詩人ではない鹿野にとっては《冷評》と受けとめたフシがあるのだが、八重の詩の可能性はこうした《表現の生硬さ》を昇華したところにもっと拓けてくるとわたしは思っている。それがもうひとつの詩の闘いなのである。
この記事の中でご紹介した本
八重洋一郎を辿る いのちから衝く歴史と文明/洪水企画
八重洋一郎を辿る いのちから衝く歴史と文明
著 者:鹿野 政直
出版社:洪水企画
以下のオンライン書店でご購入できます
「八重洋一郎を辿る いのちから衝く歴史と文明」出版社のホームページはこちら
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