林芙美子全文業録 未完の放浪 書評|廣畑 研二(論創社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月15日 / 新聞掲載日:2020年2月14日(第3327号)

林芙美子全文業録 未完の放浪 書評
言葉を蹂躙され続けた芙美子のために
研究史の見落としや「意図的封印」に遭った作品の数々

林芙美子全文業録 未完の放浪
著 者:廣畑 研二
出版社:論創社
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 「林芙美子の詩業を含む全業績」に「光をあてる」と聞いただけで、そのスケールの大きさに目が眩む思いがする。「全業績」は一九一二点、全て本人の実査による。その成果としての本書は研究書であり、資料集であり、芙美子の新発掘作品集でもある。全六二六頁という分厚さを裏切らない読み応えが感じられ、初めて存在を知らされた芙美子作品をそのまま本書の中で読むことができるという点もありがたい。

先行研究として参照されているのは、昭和女子大学編『近代文学研究叢書』第六九巻(一九九五)である。その中に掲出されている芙美子の著作数は約一一八〇点。著者はここから漏れていた七三〇点、すなわち研究史の見落としや、戦前の検閲や戦後のGHQ検閲により発表を封じられた「意図的封印」に遭った作品の数々を拾い上げた。

全体は三部構成となっている。第Ⅰ部「林芙美子の詩業と文業」は五つの章で本書のプロローグを形成する。第一章は、一五種類の版本を刊行順に並べ、政治的な蹂躙を受け続けた『放浪記』の紆余曲折を跡づける。『浮雲』のルーツに関わる発見として第二章では『大陸日報』と芙美子の関わりに触れ、第三章ではジャーナリスト大屋久壽雄にスポットを当てる。第四章では第二詩集発表以後の芙美子に「詩と小説の区別」というこだわりが薄れつつあることを見る。注目したいのは、第五章「戦争文学と敗戦文学」である。著者はここで、芙美子の戦時下作品が戦意高揚を煽るプロパガンダ性に乏しいものであったことを指摘、そのために戦後GHQの要請で該当箇所の抹消や改作を施すと、厭戦感や悲哀の漂う「敗戦文学」に転ずることを見出した。一九一二点の文業を実査した中で発見・考察された事実として注目すべきだろう。

第Ⅱ部「林芙美子の作品拾遺」には、知られざる芙美子作品が採録されている。【未発表作品】【詩稿】【童話】【小説】【随筆・紀行】【対談】【ラジオ放送】に分類され、原文がそのまま鑑賞できるうえ、それぞれに著者の解説が付されているので、書誌的な価値を踏まえながら味わうことができる。芙美子の作品が「文学史研究においても知られていない」掲載誌にさえ見出されたという事実からは、著者の微に入り細にわたる調査ぶりとともに、芙美子の仕事量の多さや、容易に全貌を掴ませない作家としての大きさをも思い知らされる。

第Ⅲ部「林芙美子の文業目録」には、「作品目録」・「対談目録」・「単行本目録」が挙げられる。「本書の基礎研究の柱」と著者の述べるとおり、「作品目録」と「単行本目録」には「研究史上の新たな知見」につき「必要な注記」が施されており、たとえば繰り返し刊行された『放浪記』のそれぞれに付された注と、それに該当する第Ⅰ部第一章の『放浪記』版本解説を併せて参照することで、把握の難しい『放浪記』の成立事情がクリアに整理されていく。

著者・廣畑氏は『林芙美子 放浪記 復元版』(論創社、二〇一二年)・『甦る放浪記 復元版覚え帖』(同二〇一三年)のほか警察資料や検閲にも大きな研究業績を持つ。このような基盤があってこそ可能になったダイナミックな研究調査であろう。が、それを支えたのは、以下の言葉に滲む芙美子への哀悼の思いに違いない。

林芙美子は昭和26年6月28日に亡くなった。戦前においては日本政府の検閲を免れないし、日本の独立を見る前に亡くなったから、GHQプレスコードの制約からも免れない。芙美子が検閲から自由であった日は1日とてなかった。(「まえがき」)


現存する芙美子の全集に完全なものはない。言葉を蹂躙され続けた芙美子のためにも、厳密な本文による全集編集が待たれる。林芙美子研究も、新たなステージに立ったと言えるのではないか。「基礎研究」として活用されることを望まれて世に出た本書から、二次的・三次的な成果の連鎖が続く兆しを感じさせられた。
この記事の中でご紹介した本
林芙美子全文業録 未完の放浪  /論創社
林芙美子全文業録 未完の放浪
著 者:廣畑 研二
出版社:論創社
以下のオンライン書店でご購入できます
「林芙美子全文業録 未完の放浪 」出版社のホームページはこちら
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