ナポレオン 第1巻・台頭篇 書評|佐藤 賢一(集英社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 歴史・地理
  5. ナポレオン 第1巻・台頭篇 書評|佐藤 賢一(集英社)
  6. ナポレオン 第1巻・台頭篇の書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月15日 / 新聞掲載日:2020年2月14日(第3327号)

ナポレオン 第1巻・台頭篇 書評
ナポレオン生誕二五〇周年
英雄の怒涛の生涯を、生きのいい語りに乗って辿る

ナポレオン 第1巻・台頭篇
著 者:佐藤 賢一
出版社:集英社
このエントリーをはてなブックマークに追加
 コルシカ島のガキ大将、ナブリオーネ・ボナパルテ、九歳。この少年こそ、本作の主人公、後のナポレオン・ボナパルトだ。当時のコルシカ島はフランス統治下にあり、少年はいつかコルシカ独立の英雄になるのだと意気込んでいる。

まずこの第一章で、フランスの英雄としか思っていなかったナポレオンに新たな目を向けることになる。後にフランスの軍人になってから、実際にコルシカの独立を目指す運動にも関わっていくほど、故郷への思いが強い。フランス革命の混乱の中、戦争で頭角を表し、やがて皇帝になった英雄、ということは知っていても、コルシカの独立運動との関わりを含め、ナポレオンについてほとんど知らないことに気づかされ、この先描かれる彼の人物像や皇帝への道が楽しみになる。

本作はナポレオンの生涯をコルシカ島での子供時代から辿っていく、まさに大河小説だ。一人の人物の生涯が、各巻五百ページ越えで全三巻に亘って語られる。イメージが先行する「英雄」も「人間」に見えてこようというものだ。「英雄」にも「人間」らしいところがあるのではなく、「人間」が「英雄」になるのだという当然のことが改めて感じられる。

その生涯はというと、コルシカ島の小貴族の次男として生まれ、フランス本土に渡って軍人になり、浮き沈みを繰り返しながらも革命で混乱するパリでの活躍で英雄視され、やがて軍人として上り詰める。皇帝になり、ヨーロッパを席巻するが、最後はセント・ヘレナ島に幽閉される。大まかに言ってしまえば、こういうことになるだろう。

ナポレオンは軍人としての日々に、多くの優秀な軍人を部下にする。それぞれの個性と能力を生かし、卓抜な戦術を駆使して、多くの戦いで勝利を収める。また警察大臣フーシェや外務大臣タレイランという実力者とは、利用したりされたりしながら国の内務外務を行う。兄や弟、義理の息子も、将軍にしたり王にしたりと自らの統治のために働かせる。こうした人々の描写や彼らとの関わりが、本作に歴史書ではなく小説として血を通わせる。

また、最初の妻ジョゼフィーヌ、二人目の妻マリー・ルイーズ、幾人かの愛人たちとの熱烈な恋や仲むつまじい結婚生活、癒しの一時などが描かれることで、人間ナポレオンの姿が浮き彫りになる。皇帝になり、幸せな結婚生活を送り、息子が生まれるに及んで幸福の絶頂にあるというのだから、人間らしいことこの上ない。

ナポレオンは基本的に軍人なので、戦争に関する場面も多い。戦術戦略も語られる。興味ある読者には読みがいのある部分だろうし、そうでない読者にはナポレオンを英雄にした重要な一面として読めるだろう。一方で、ナポレオンが自らを栄光に導いた戦争の負の側面に直面する事態も読者は見ることになる。

前半は立身出世の流れに乗って読み進むが、評者は最終巻の後半でページをめくる手が加速した。状況が目まぐるしく変わる上に、落ち目になった人物に対する周囲の人間の態度の豹変、悩み迷いながらとはいえ裏切らざるを得なくなる者たちのその後、英雄の零落の日々と、そこに描かれているのはナポレオンや彼を巡る人々の実に人間らしい姿だ。

フランスを中心に西洋を舞台にした数々の歴史小説を書いてきた佐藤賢一による本作は、英雄の生涯を語るにふさわしい大部の小説だ。三冊揃うとなかなかの迫力だが、分量を見てためらうのはもったいない。読み出したら、馬鹿にされながらも黙々と努力する少年時代、上司の都合や革命の趨勢に翻弄される日々や破竹の快進撃を共に辿ってページをめくることになるだろう。睡眠時間は三時間、肖像画で上着に手を差し込んでいる謎など、よく知られている話が織り込まれているのもうれしい。

昨年は生誕二五〇周年だった。一代でフランス皇帝になり、一代でその座を失った英雄ナポレオン。その怒涛の生涯を、著者の生きのいい語りに乗って辿ってみるのによい頃合いかもしれない。
この記事の中でご紹介した本
ナポレオン 第1巻・台頭篇/集英社
ナポレオン 第1巻・台頭篇
著 者:佐藤 賢一
出版社:集英社
「ナポレオン 第1巻・台頭篇」は以下からご購入できます
ナポレオン 第2巻・野望篇/集英社
ナポレオン 第2巻・野望篇
著 者:佐藤 賢一
出版社:集英社
「ナポレオン 第2巻・野望篇」は以下からご購入できます
ナポレオン 第3巻・転落篇 /集英社
ナポレオン 第3巻・転落篇 
著 者:佐藤 賢一
出版社:集英社
「ナポレオン 第3巻・転落篇 」は以下からご購入できます
「ナポレオン 第3巻・転落篇 」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
木下 朋子 氏の関連記事
佐藤 賢一 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
歴史・地理関連記事
歴史・地理の関連記事をもっと見る >