まほり 書評|高田 大介(KADOKAWA )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月15日 / 新聞掲載日:2020年2月14日(第3327号)

まほり 書評
丁寧な作りで魅了する民俗学ミステリ
実在感のある因習の《不気味さ》と集落の《閉鎖性》

まほり
著 者:高田 大介
出版社:KADOKAWA
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まほり(高田 大介)KADOKAWA
まほり
高田 大介
KADOKAWA
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 民俗学ミステリ『まほり』は、《古くからの風習》の負の側面に正面から立ち向かう。もちろん、風習は、それが生じた時点では世の常識に適っており、必然性も合理性もあった。しかし時が移り世の前提が崩れたら、理不尽で不合理なものに変貌してしまうのだ。

大学で社会学を専攻する四年生の勝山裕は、ゼミ仲間の飲み会で聞いた都市伝説に興味を惹かれる。とある町のあちこちに、二重丸が描かれた紙が貼られているというのだ。その町は裕の実家に近い可能性が高い。調査のため故郷の図書館に向かった裕は、そこでアルバイトをしている元同級生の飯山香織と再会した。彼女と共に、裕はフィールドワークを進める。

一方、都会から引っ越してきた少年・淳も、近くの村で不思議な体験をしていた。山奥の渓流で不思議な少女と出会ったのだ。彼女は勝手に外出していたらしく、複数の成人男性により連れ去られてしまった。淳の祖母によると、彼らは閉鎖的な隣の集落の者ではないかとのことだった。淳は少女が監禁されていることを疑い、隣の集落の様子を見ることにした。

大学生・裕のパートは二重丸に関する民俗学的調査に多くの紙幅を費やす。この調査は、凡庸な娯楽作品にありがちな、主役たちの独断・偏見・決め付けがすんなり事実と認められていくような単調な展開を見せない。裕の、探究する題材に対するアプローチは徹底的に丁寧だ。地方図書館の情報とコネクションをフル活用し、地方の民俗の実態を調べ上げる。資料を地道に読み込み、ベテラン司書や在野の研究家の話に真摯に耳を傾け、質疑応答もしっかりおこない、仮説のスクラップ・アンド・ビルドを繰り返す。そして着実に核心へと迫るのだ。調査過程では、協力者や香織との会話のテンポ・リズムが心地よいのがポイントである。交わされる会話が自然であり、話者の性格や感情がときに明瞭に、鮮やかに表出されていくものである。そこに無味乾燥な衒学性はいささかもない。

しかも、後半になってから徐々に姿を現す因習は、フィクションとはいえ、強烈な実在感を有している。作者は歴史的事実を綿密に調べ上げ、江戸時代日本の民俗を深く理解した上で、《いかにもありそう》な因習の《不気味さ》と、それを固守する集落の《閉鎖性》とが、極めて高い精度で描出されるのだ。

細かいエピソードや情景描写など、ディテールが活き活きしているのも本書の特徴である。淳が感じる田舎暮らしの楽しさ。謎の少女の隠しきれぬ淫靡さ。隣村の不気味さ。そして、中学生のやるちょっとした冒険の高揚感。これらは物語のいいスパイスになっている。一方、大学生である裕も、昔なじみで美しくなった香織との交流にどぎまぎするなど、年齢相応の瑞々しさ、初々しさを見せる。これらの空気感は、さりげなく描写されており、平易な文章の中で、場や人間関係の雰囲気が、するりと読者の精神に沁み込んでいく。おかげで全てのシーンが読みやすく、登場人物の性格がわかりやすく、小説としても味わいが深い。作者の腕が確かでなければこうはならない。丁寧な作りが読者を魅了する、珠玉の逸品といえよう。
この記事の中でご紹介した本
まほり/KADOKAWA
まほり
著 者:高田 大介
出版社:KADOKAWA
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