2016年回顧 近世史 江戸時代の学問・教育に関する研究成果が多数発表された年に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年12月23日 / 新聞掲載日:2016年12月23日(第3170号)

2016年回顧 近世史
江戸時代の学問・教育に関する研究成果が多数発表された年に

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今年は、人物史、思想史、史料の翻刻など、あらゆる切り口からの、江戸時代の学問・教育に関する研究成果が、多数発表された年と言えるだろう。まず、挙げられるのが、前田勉『江戸教育思想史研究』(思文閣出版)である。限られた者のためだった学校が、江戸時代に、一般の武士・農民・町人にまで広がった。学校教育の始まりともいえるこの時代の教育目的や、学習法はどのようなものだったのか。本書は、この点を明らかにすることにより、学校教育が当然のものとなった近代を問い直すことを目的としている。登場人物は、林羅山から森有礼に及ぶ。

個別の学者や学問についての研究成果としては、井上敏幸監修、髙橋昌彦編著『廣瀬淡窓』(思文閣出版)がある。本書は、2014年に、大分県教育委員会が大分県先哲叢書として刊行したものの新装版。兵学者大村益次郎、写真家上野彦馬、内閣総理大臣清浦奎吾なども学んだ、日田の咸宜園を開いた、広瀬淡窓。彼の新出書簡の分析等をもとに、その人物像や教育の在り方が、豊富な写真とともに、平易な文章で描かれている。ほかに、梅溪昇『緒方洪庵』、桐原健真『松陰の本棚―幕末志士たちの読書ネットワーク』(以上、吉川弘文館)、片桐一男『勝海舟の蘭学と海軍伝習』(勉誠出版)、史料翻刻では、大阪大学会沢正志斎書簡研究会編『会沢正志斎書簡集』(思文閣出版)が出された。

また、大口勇次郎『江戸城大奥をめざす村の娘―生麦村関口千恵の生涯』(山川出版社)は、武蔵国橘樹郡生麦村名主の関口家で書き継がれた日記から、その娘千恵の一生を明らかにしたものだが、その中で、千恵の弟享二の江戸の漢学塾での寄宿生活についても、具体的に分析されており、興味深い。ほかに、女性を題材としたものには、吉田ゆり子『近世の家と女性』(山川出版社)がある。

対外関係史の分野では、松本英治『近世後期の対外政策と軍事・情報』(吉川弘文館)、佐野真由子『幕末外交儀礼の研究―欧米外交官たちの将軍拝謁』(思文閣出版)、木村直樹『長崎奉行の歴史―苦悩する官僚エリート』(KADOKAWA)が出された。

旅については、高橋陽一『近世旅行史の研究―信仰・観光の旅と旅先地域・温泉』(清文堂出版)、柴田純『江戸のパスポート―旅の不安はどう解消されたか』(吉川弘文館)がある。入門書としては、大石学監修『現代語 抄訳で楽しむ 東海道中膝栗毛と続膝栗毛』(KADOKAWA)。丁寧な脚注や、宿場ごとに「豆知識」も記載されており、初心者も当時の大ベストセラーを充分楽しめる。

ほかに、藤田覚編『幕藩制国家の政治構造』、東昇『近世の村と地域情報』
(以上、吉川弘文館)、渡辺尚志編『生産・流通・消費の近世史』(勉誠出版)、落合功『国益思想の源流』(同成社)、倉地克直『江戸の災害史―徳川日本の経験に学ぶ』(中央公論新社)、山本博文『大江戸御家相続―家を続けることはなぜ難しいか』(朝日新聞出版)などが、挙げられる。
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