マトリ 厚労省麻薬取締官 書評|瀬戸 晴海(新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年2月15日 / 新聞掲載日:2020年2月14日(第3327号)

マトリ 厚労省麻薬取締官 書評
麻薬取締最前線!
国内の麻薬組織、巨大な国際的麻薬シンジケートに立ち向かう国家公務員たち

マトリ 厚労省麻薬取締官
著 者:瀬戸 晴海
出版社:新潮社
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 本書の題名である「マトリ」とは「麻薬取締官」の縮約形で、「ヤク」の世界で頻発する隠語の一つである。正体は厚労省所属の国家公務員である。最近、連日のようにマスコミで報じられる薬物犯罪に対処するのがその職責である。

憂慮すべき事態であるが、わが国における薬物犯罪は一向に衰える気配がなく、むしろ薬物は多種多様となり犯罪動向もインターネットの普及などもあって、多様化し複雑化する。著名な芸能人やスポーツ選手ばかりでなく、大学生や高校生なども関係する犯罪となっていて、大変身近な存在となっていることが、ひしひしと感じられて不気味である。

この犯罪の怖いところは薬物乱用者の身に危険が及ぶばかりでなく、周囲の人間にも累が及ぶことである。「薬物購入資金欲しさの犯罪、薬理効果に起因する傷害事件や交通事故、幻覚等の慢性中毒からくる殺人や放火等。過剰摂取等による急性中毒もある。呼吸停止で死に至ることもあれば、精神錯乱して猟奇的な犯罪に走ることもある。薬物は、個人の健康を害するにとどまらず、家族、職場を破壊し、地域社会や国家に大きな弊害をもたらす」。

実は日本は多国籍化した外国の犯罪組織から目をつけられていて、強烈な毒性を持った魔性のウイルスが猛威を振るっているという実態がある。その結果、彼らに莫大な利益をもたらしているのである。この強敵に立ち向かうのがマトリであって、本書はその取り締まりの最前線にいた著者が事実に基づいて書いた警世の書とも言うべき出来栄えで、若い人には是非手に取って貰いたい一冊である。

書き出しはロードローラー事件と称される案件で、普通乗用車の二倍程度の大きさの大型重機が「犯人」であった。この犯人は二二〇袋、実に一〇八キロに及ぶ覚醒剤を隠し持っていたのである。末端価格は八七億円を下らないという代物である。これは国際的麻薬組織を相手にして麻薬取締部が総力をあげての捜査が実を結んだ結果である。捜査期間は優に一年を超えていた。

ところで、この麻薬取締部は決して大きな組織ではなく、せいぜい三〇〇名のこぢんまりとした所帯である。これでもって国内の麻薬組織に加えて巨大な国際的麻薬シンジケートに立ち向かうという大役が課せられている。ちなみに世界の麻薬取引は年間五〇兆円を優に超えているという試算がある。

カナダなど大麻を合法化する国も出てきたが、本書で教えて貰ったのは大麻がgateway drugと言われていることである。つまり大麻は他の違法薬物への入り口なのである。これは軽い気持ちで迂闊に手を出すと大怪我をするということでもある。決してカッコ良い代物ではなくて、地獄への片道切符かも知れないのである。

本書は社会のために地味な活動に専心している人たちの懸命な努力の一端をえがいた、読んで得るところの多い貴重な出来栄えとなっている。なお著者は「過酷で悲惨な末端現場を経験すればするほど、覚醒剤の密売人を追えば追うほど、水際対策や国際連携の必要性を身に染みて感じるはずだ」と述懐しているのが印象的である。
この記事の中でご紹介した本
マトリ 厚労省麻薬取締官/新潮社
マトリ 厚労省麻薬取締官
著 者:瀬戸 晴海
出版社:新潮社
「マトリ 厚労省麻薬取締官」は以下からご購入できます
「マトリ 厚労省麻薬取締官」出版社のホームページはこちら
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