ジャーナリズムなき国の、ジャーナリズム論 書評|大石 泰彦(彩流社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月15日 / 新聞掲載日:2020年2月14日(第3327号)

ジャーナリズムなき国の、ジャーナリズム論 書評
日本の「マスコミ」の病巣を切開
パラダイムの転換を突き付ける渾身の書

ジャーナリズムなき国の、ジャーナリズム論
著 者:大石 泰彦
出版社:彩流社
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 タイトルからして刺激的な本である。これは、日本の「マスコミ」が抱える病巣を容赦なく切開し、パラダイムの転換を突き付ける渾身の書である。

まず冒頭から喧嘩を売っている。編者である大石泰彦氏は、メディアの法と倫理を第一線で研究し、大学でも教えている。ゼミの卒業生は、新聞・テレビ・広告などの世界で幅広く活躍している。

そんな大石氏がこう書く。日本のメディアは、実はジャーナリズムとは無縁である。これまで、さまざまな「病理」について指摘し、改善のための処方箋や対抗策を提示し、白衣を着こんで医療活動を施そうとしてきた。しかし、そうしたことは「心得違い」であり、「無駄」であり、ミスリードであり、「有害」ですらあったと。

評者であるわたしは長く放送の世界に身を置き、「日本のマスメディアよ、ジャーナリズム本来の役割を取り戻せ」と世に訴えてきた。だが、この本は、そうした実感的な主張とは対極に位置する。

日本のメディアは、統治機構と対峙するものではなく、インサイダーとして権力の一翼を担い、統治者目線に基づいた情報伝達の装置であったことを、ぐうの音も出ないほどの筆力で論証しようとしている。

戦後の日本のメディアに、言論・出版その他一切の表現の自由などなかった。戦前から続く強力な政治権力の下で、「建前」と「実態」との間の「かわいそうな」歴史がそこにあると大石氏はいう。うーん少し手厳しすぎないか。

共著者のひとり、花田達郎氏はジャーナリズムを名乗るのであれば、当然「あるべきもの」がなく、「なくすべきもの」があるという点を指摘する。まずジャーナリストを養成する教育がない。ジャーナリストを、職能集団として自己統治する仕組みがない。「個」としてのジャーナリストが当たり前に仕事をするための「生存基盤」がない。自分たちの日常の仕事を客観化し、相互批判するための学会がない。日本では、記者などの現場経験のある人間が大学教員につくことが多いが、そんな安直なものでよいのかと花田氏はいう。その通り。放送の世界から教員に転じたわたしなど耳が痛い。さらに、読者・視聴者からの苦情に対応するための横断的な対応機関がない。これは、記事やニュースなどの「製造物」を、メディアの側が共同責任として引き受ける認識を持っていないからだ。さらに、放送局の免許交付などの電波・放送行政の権限を有する「電波監理委員会」が、占領期には存在したものの、吉田茂内閣の時代に主権を回復したと同時に、行政の簡素化を名目に廃止された。これによって、政府が放送メディアに直接権限を行使できるようになり、ジャーナリズムおよびジャーナリストの自由と独立という制度的な要件が失われてしまった。

一方、いらないものは、業界のルールをあたかも法的権利のように振りかざす「編集権」。さらに一九六〇年の安保闘争の時の体制翼賛的な「七社共同宣言」。権力側の広報という撒き餌に群がりながら、客観性を担保できていると錯覚している「記者クラブ」の存在。

花田氏は言う。いったい日本のメディアは権力として、かつ体制維持装置としてむしろ順当に機能していると。

それでよいわけはない。権力監視は必要であり、言論の公共圏はなくてはならない。マスコミが消滅しても、ジャーナリズムそのものが消滅してよいはずはないのだ。

長期政権のおごりが目に余り、為政者の言語が崩壊する中、日本の民主主義を考える上で、根源的な示唆を提供するこの本の意義は大きい。
この記事の中でご紹介した本
ジャーナリズムなき国の、ジャーナリズム論/彩流社
ジャーナリズムなき国の、ジャーナリズム論
著 者:大石 泰彦
出版社:彩流社
以下のオンライン書店でご購入できます
「ジャーナリズムなき国の、ジャーナリズム論」出版社のホームページはこちら
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