2016年回顧 近代以後 現代戦争をめぐる考え方を示す本が蓄積される|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年12月23日 / 新聞掲載日:2016年12月23日(第3170号)

2016年回顧 近代以後
現代戦争をめぐる考え方を示す本が蓄積される

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水俣病発生の「公式確認」から六〇年を経た今年、石牟礼道子『苦海浄土 全三部』(藤原書店)が一冊の本となって発売された。『苦海浄土―わが水俣病』(講談社)の発売が一九六九年、池澤夏樹=個人編集世界文学全集第三集(河出書房新社)の一冊に同書全三部が入ったときが二〇一一年――未来にむけて、いまこのときに、過去が積み重なってゆく現代史の相貌を、本の発売があらわしている。

「戦後」七〇+一年めの今年、兵庫県立美術館と広島市現代美術館は「一九四五年ア五年」と題した展示を広げ、その図録を発売した(出原均ほか編『一九四五年ア五年』兵庫県立美術館、広島市現代美術館)。戦時への「まで」が(加藤陽子『戦争まで―歴史を決めた交渉と日本の失敗』朝日出版社)、戦時の「デザイン」が(田島奈都子編『プロパガンダ・ポスターにみる日本の戦争』勉誠出版)、被爆者に「なる」ことが(高山真『〈被爆者〉になる―変容する〈わたし〉のライフストーリー・インタビュー』せりか書房)、戦争の後の引揚げとそれをめぐる「文学」が(朴裕河『引揚げ文学論序説―新たなポストコロニアルへ』人文書院)、戦後における戦艦武蔵の「真実」が(一ノ瀬俊也『戦艦武蔵―忘れられた巨艦の航跡』中央公論新社)、いま、問われ、現代戦争をめぐる考え方を示す本が蓄積されてゆく。

大きな震災の発生から二一年が経つそのあいだにもいくつもの地震による災禍がくり返され、そこにおける生への思索がある(原田隆司『震災を生きぬく―阪神・淡路大震災から20年』世界思想社)。

「新たな世界史を構築することを目指す」「MINERVA世界史叢書」の刊行が始まり(羽田正責任編集『地域史と世界史』、秋田茂ほか編『「世界史」の世界史』ミネルヴァ書房)、発売された本が現在の歴史意識の一端をあらわす。

いま、歴史はどう問われるか――ひとの身体部分がひとを識別する標となり(高野麻子『指紋と近代―移動する身体の管理と統治の技法』みすず書房)、また、口以外のひとの身体部分が言葉を発する(斉藤道雄『手話を生きる―少数言語が多数派日本語と出会うところで』みすず書房)、その経緯や機能が問われた。みずから「文化」を創りだし、ともに、「職場や地域をより人間的なものに変えていこうとする社会活動」を(道場親信『下丸子文化集団とその時代―一九五〇年代サークル文化運動の光芒』みすず書房)、「日雇労働者たちや活動家たち」は「どのようにみずからの空間を生み出していったのか」と(原口剛『叫びの都市―寄せ場、釜ヶ崎、流動的下層労働者』洛北出版)、初期社会主義者が「なおも新しい共同性を構築する夢に取り憑かれ、それにみずからを賭け続けた」(梅森直之『初期社会主義の地形学―大杉栄とその時代』有志舎)と、問うた歴史が書かれ、本となった。

あの本この本が販売されている本屋を介して、いま、政治が議論されている(福嶋聡『書店と民主主義―言論のアリーナのために』人文書院)。
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