三島由紀夫『旅の絵本』(講談社) 美しい七つの舞曲 評者:阿川弘之 「週刊読書人」1958(昭和33)年5月26日号|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年2月16日 / 新聞掲載日:-0001年11月30日(第226号)

三島由紀夫『旅の絵本』(講談社)
美しい七つの舞曲
評者:阿川弘之 「週刊読書人」1958(昭和33)年5月26日号

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三島由紀夫のこんどのアメリカ旅行の印象記である。表紙に八枚のカラー・プリント、口絵には四十数葉のモノクロームの写真を飾って、いかにも題名にふさわしい感じに仕立てた本で、いろいろ面白い話が出てくる。

例えば、日本とケタ違いの「ニューヨークの金持」の話では、たまたま招待を受けて屋上の露台から摩天楼の夜景を眺めていると、その家の主人から「この五十階のビル全部が私の持物で、今むこうに建ちつつある、あの六十階のビルも私の持物だ」などと云われ、びっくりすること。ミシシッピー州のナッチェスという小さな「過去に生きる町」には、南北戦争前の古い美しい建物がたくさん残っていて、此所では「戦争前はよかったね」というと、それは南北戦争前のことだという話。マーロン・ブランドとジェームズ・ディーンの揺籃の地、ニューヨークの「アクターズ・ステュディオを訪ねて」では、此所の親分のストラスバーグという男が、劇中人物をカリカチュアライズする練習の為に、生徒を動物園へ連れて行って、動物のまねをさせるのだという話。

そのほか「ニューヨークの奇男奇女」にしろ、なにしろ対象がよほど風変りで非凡なので、三島氏があっさり書き流していても、結構面白いのである。一番の力作は、七つの短章から成る、冒頭の「旅の絵本」であろうが、これにはしかし、「私の灼けつくような太陽との対話が好きだ。この重々しい、眩惑的な、しかも露ほども思索と関わらない対話が好きだ」とか、「身を突き刺す嚠喨たる喇叭の音のように、たえず鳴りひびいている熱帯の日光」とかいう、大いにこった表現がふんだんに出てきて、そうでなくてもアタリマエでない材料に、少々薬味がきき過ぎたような感じが、無くもない。「太陽との対話」というのは、日光浴とどの程度意味が違うのか、などと考え出したら多少味が落ちるかもしれない。しかし、この七つの短章の中では、七番目の「フラメンコの白い裳裾」というのは傑作で、さながら一篇の詩、または短く美しい一個の舞曲の趣がある。

巻末に、ニューヨーク・シティ・バレーとアメリカのミュージカルについての、豊富な解説がついている。(あがわ・ひろゆき=作家)

三島由紀夫『旅の絵本』(B6判・二一一頁・二八〇円・講談社)

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