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更新日:2020年2月21日 / 新聞掲載日:2020年2月21日(第3328号)

磯野真穂*古田徹也「生きることの不安を問い直す」トークイベント載録(代官山 蔦屋書店)
ほんとうの言葉/それぞれの踏み跡
『急に具合が悪くなる』/『ダイエット幻想』/『出逢いのあわい』

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第3回
不安の本質とはいったい何か


ダイエット幻想 (磯野 真穂)筑摩書房
ダイエット幻想
磯野 真穂
筑摩書房
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磯野 
 もう一冊の『ダイエット幻想』についてですが、実はタイトルを失敗したのではないかと編集の橋本陽介さんと話すことがあり、その理由は、ダイエットについてだけではなく、現代社会でいかに生きるか、ということまでが本の射程に入っているからです。この本が、ダイエットではなく、昨今いろいろなところで賛美される「そのままのあなた」を批判的に捉えるところから入っている理由はそこにあります。

この本は、文化人類学をベースに身体と食、そして他者と生きることについて書いた本なのですが、中高生向けのプリマー新書から出る本なので、一〇代や二〇代の悩んでいた自分がどんな言葉と出会っていたら救われただろうという問いを頭に置きながら言葉を選びました。

なぜ私がそんなことを考えていたかというと、私自身が二三歳の時に、一冊の本に出会って救われたことがあったからです。それは、『ダイエット幻想』にも引用されている、社会学者の浅野千恵さんによる『女はなぜやせようとするのか』(勁草書房)という本なのですが、その本に「女らしくなることと、きちんとした人間になることが矛盾してしまう」という一節がありました。

この一節を見た時、私が漠然ともがいてきたことの輪郭がはっきり見え、救われた思いがしました。浅野さんがここで言っていることがどういうことかというと、たとえば、女性が意見をはっきり述べると「怖い」と揶揄されてしまうことがある。他方、自分の意見を持って、それをきちんと述べられることは人間として奨励されていることでもあるんです。

田舎育ちのせいもあると思いますが、それまでの人生で、依存的で弱々しい方が女性として望ましいという規範を感じることがしばしばありました。でもそれは、人としてきちんとしていることと矛盾しているわけです。じゃあ、どうしたらいいのか?

私は摂食障害になったわけではないのですが、この本を読んだ時に、人文社会科学が持つ言葉の力を強く感じました。そういう体験があったため、その恩返しを私よりも下の世代の人にできたらと思い、書いた本が『ダイエット幻想』です。自己・ジェンダー・食の三パートに分け、現代社会でいかに生きるかを若者に向けて議論しました。

さて、今日はここから対談に入ろうと思うのですが、『ダイエット幻想』に出てくる人たちは、痩せることによって日常生活の不安を乗り越えようとしています。実際に痩せると良いことがあって、不安がなくなった気もするわけですが、その不安の本質とはいったい、どこにあるのか? 古田さんはどう思われますか?
古田 
 本質というと難しいのですが、先ほど磯野さんが言われたように、不安にはいろんな種類があって、他人からの目線や他人からの評価、将来に関する不安もありますし、逆に過去に関することで自分は何をしてしまったんだろうとか、あるいは何かを見過ごしたんじゃないかとか、挙げればキリがないと思うのですが、不安の本質を探ろうとすると、不安というのはあまりに多様なのでかえって本質が逃げてしまうかも知れません。『急に具合が悪くなる』『ダイエット幻想』で共通していると思うのは、コントロールをしなければならないし、できるはずなんだけれども、できていないということかもしれない。僕の知り合いの山本ぽてとさんというライターの方が、『ダイエット幻想』について、ダイエット幻想というのはコントロール幻想なのではないかと書評に書かれていて、僕はこの指摘に膝を打ちました。

われわれの現実というのはあまりにも複雑でどんどん流動していくのでコントロールなんてできないのだけれども、するべきだと思われているし、自分自身もそう思っているし、しかも、その規範はある面では正しい。でも正しいがゆえに、何か悪いことが降りかかったり予想したことと違うことが起こったりすると、その人が何か見過ごしたんじゃないかというふうに、本人に責めや責任が覆いかぶさってくるわけです。

僕は「リスク」という言葉が大嫌いなのですが、人の道行きはまさに塞翁が馬というか、リスクと呼ばれるものが本当にそうなのかは必ずしも分からない。必ず悪いことだとは限らない。その後の展開によって、そのものの意味も変わり得る。にもかかわらず、未来の出来事の意味をリスクとして固定化し、それを避けられなかった責めを負わす、という傾向がいまの社会では強く存在します。
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