磯野真穂*古田徹也「生きることの不安を問い直す」トークイベント載録(代官山 蔦屋書店) ほんとうの言葉/それぞれの踏み跡 『急に具合が悪くなる』/『ダイエット幻想』/『出逢いのあわい』|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年2月21日 / 新聞掲載日:2020年2月21日(第3328号)

磯野真穂*古田徹也「生きることの不安を問い直す」トークイベント載録(代官山 蔦屋書店)
ほんとうの言葉/それぞれの踏み跡
『急に具合が悪くなる』/『ダイエット幻想』/『出逢いのあわい』

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第4回
絶望しないチンパンジー/「像」と言葉の解放/未来を選ぶということ

古田 徹也氏

磯野 
 コントロールしたいという欲望、あるいはコントロールすればどうにかなったんじゃないかという後悔が不安を呼び起こすのだと思います。この企画を考えていた時にふと思い出したのが、数年前にテレビで観た、霊長類学者の山極寿一さんの番組でした。チンパンジーと人間の三、四歳の子どもに円が描いてある紙とクレヨンを渡すんです。すると面白いのが、チンパンジーと人間の子どもはクレヨンの使い方が全然違う。なるほどなと思ったのは、チンパンジーは描かれている円に沿ってぐるぐるクレヨンを動かし、人間の子どもはクレヨンを使って書き足すことでした。たとえば、その円を花にしたり、顔にしたりするわけです。

これはつまり『言葉の魂の哲学』でもキーワードになる連想、すなわち想像力の話だと思います。

山極さんは、この絵の話の後に、「チンパンジーには絶望がない」という話をします。可愛がっているチンパンジーが頚椎か何かを傷めてまったく動けない状況になった、ところがそのチンパンジーの方にはまったく落ち込んでいる素振りがない。でも私たちがそんな状況に突然なったらただただ絶望すると思うんです。なぜ絶望するかというと、その状態から未来を連想するからですね。人間には絶望がありますが、逆に言うと、だからこそ人間は希望することができる。ですから、不安というのは人間が何かを連想するということに繋がっているのではないかと思うんです。
古田 
 そうですね、そんな気もします。僕の本で重視した連想というのは、限りなく広がっていく、未来を思い描いてそこからさまざまな可能性を描いていく、そういうイメージだったのですが、今のお話で出てきたのはむしろ可能性を閉じていく方向の連想ですね。僕はウィトゲンシュタインという哲学者の本をよく読んでいるのですが、彼はその種のことに関して「像(独語:Bild/英語:Picture)」と言っていて、「像」はわれわれが何かを理解しようとするときの大きな助けになるけれども、ときにその「像」が迫ってきて、そこにとらわれて思考の可能性が縛られてしまうこともある。たとえばそれが「怒り」であれば、頭がカッとなって湯気が立っている「像」みたいな、ある典型的な側面を誇張して迫ってくる。怒るということにはさまざまな意味や豊かさがあるのに、ある典型的なイメージに支配されて思考が縛り付けられていく。僕はむしろそれをほぐすような、言葉の解放というイメージで連想を考えていたんです。
磯野 
 古田さんと打ち合わせしたとき、宮野さんと古田さんは哲学的な問題意識を共有した同志、といったことをおっしゃっていました。実際、今、古田さんがお話ししてくださった、限りなく豊かに広がる連想と、閉じてゆく連想の話が『急に具合が悪くなる』で展開されています。たとえば宮野さんは、この薬を飲んだらこんな副作用がある、こういう状況になったら次はこんなことになるといったリスクを病状が変わるたびに医師から提示されます。そうすると、あまりにもさまざまなリスクが未来に提示されるため、普通に生きていく生き方が消えてしまったように思える。

でもその状態に対して宮野さんは、未来とは提示されたリスクにより、その先が決まってしまうような単純な時空間ではないはずだと問い返します。提示された複数の分岐ルートのうちの一つを選んだら、その先が一本道になることはなく、むしろまた新たな複数の分岐ルートに入っていくのが、選択とその先の未来の内実だと。これは、古田さんが『言葉の魂の哲学』で展開された議論と繋がると思うのですが、どうでしょうか。
古田 
 先程の「選ぶ」の話と繋がりますが、言葉を選ぶということにかんして『言葉の魂の哲学』の中で強調したのは、それは確かに「選ぶ」のだけれど、同時に、その言葉は向こうからやってくる、ということでした。そこが面白いところだと思っていて、言葉を選ぶんだけれど、その選んだものがしっくりくるというか、向こうから訪れる。そこからまた新しいことを考えていったり可能性が広がっていく。逆に、「この言葉でいいや」と、自分で恣意的に決めつけてしまうと連想が広がっていかないこともあるのではないかと思います。「選ぶ」ということについて、実際われわれは不思議な面白いことをしているという気がします。
磯野 
 そうですね。言葉だけでなく、冒頭で古田さんが『急に具合が悪くなる』から参照された、宮野さんがホスピスを選ぶときの話がまさにそれに当たりますよね。
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