磯野真穂*古田徹也「生きることの不安を問い直す」トークイベント載録(代官山 蔦屋書店) ほんとうの言葉/それぞれの踏み跡 『急に具合が悪くなる』/『ダイエット幻想』/『出逢いのあわい』|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年2月21日 / 新聞掲載日:2020年2月21日(第3328号)

磯野真穂*古田徹也「生きることの不安を問い直す」トークイベント載録(代官山 蔦屋書店)
ほんとうの言葉/それぞれの踏み跡
『急に具合が悪くなる』/『ダイエット幻想』/『出逢いのあわい』

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第6回
世界でもがきつづけるために


古田 
 先ほど道徳的リスクの話が出ましたが今の話とも通じる話で、合理的な計算をするにしても自分で選ぶにしても、そうすることによって道徳的な責任、責めを負わされるわけです。医療の現場すらそうなんです。
磯野 
 生活習慣病もそうです。古田さんもそろそろ大丈夫ですか?
古田 
 まさに不安ですね(笑)。病気になった原因についてある種の道徳的な責任を負わされる。無責任だった、不摂生だったとなるわけです。予防医学とか通常の生活に医療が入ってきて、ある種先走ってこれは避けられるリスクだったと、病気になったのに責められるわけです。それは就活/転職に関してもそうですし、犯罪被害や事故にあったときでも、すぐそういう話になってくるわけです。それも理想的なコントロールというものを示す「像」があって、後から見れば粗探しはいくらでもできる。それがありとあらゆるところに蔓延していて、そのことは僕が『不道徳的倫理学講義』を書く動機にもなっているんです。お二人の本に通底していることだと思います。
磯野 
 こうやれば正解があって不安を取り除けるという決め打ちされた世界観に対する違和感がこの三冊に通底するテーマです。そこで不確実性の話が入ってくるんです。
古田 
 これをしたから成功するということでなく、これをやっておけば免責されるというか、責められない。これがむしろ大問題で、宮野さんがどんどん深められていたことの一つは、むしろそこを引き受けるというところにあったと思います。それを引き受けないと自分の人生を手放すことになる。そこも重要だと思うのですが、どちらにしても宮野さんはよく考える人なので考えて考えた結果、何か自分が思いもよらなかった出来事が起きたときに、それを自分から切り離すのではなくてそれごと生きていくと。
磯野 
 そうですね。この本でかなり多くの方が、「不運という理不尽を受け入れた先で自分の人生が固定されていくとき、不幸という物語が始まる」(一一六頁)という部分を引用されて、多くの方が感銘を受けているところのように思うのですが、たとえばこれまでの摂食障害の文脈だと摂食障害になったのは母親の影響だという説。これは八〇年代、九〇年代の医学/心理学の世界ではかなり強力に言われていた説なんです。そうすると娘さんが食べられなくなったときに、まず母親を責めて母親も自分を責めて最後は父親も妻を責めるといった形になって、なぜ摂食障害になったかというストーリーは作られていくのですが、その結果もっとおかしくなっていくような状況がありました。ここで宮野さんが言っているのはその物語の中に入っていく必要がない。そこで抗い続けるみたいな話もされていたと思うんです。
古田 
 そこはちょっと難しくて、僕もうまく整理ができていないのですが、母親がこうだったからとか、ガンの遺伝子を持っているからとかそういう物語に預けない、「手放さない」と宮野さんは言っていて、そこで何をしているかというと言葉を探している。何か表現を探している。その一つの結果が、『急に具合が悪くなる』だと思うんです。何か原因と結果がはっきりした物語ではなくて、ガンの中で傷ついたり立ち止まったりそこで生きている自分を表現するといいますか――。

先ほど、宮野さんが『出逢いのあわい』を引き継ぎながら考えているということの、一つ最たるものだと思うのですが、「かっこいいだけのガン患者なんているわけないですよね」(一三四頁)というところがありますが、通常のかっこいいガン患者というのは良い患者、お利口な患者だと思うんです。聡明で専門職である医師と会話ができてリスクというのを理解している。でもここでのかっこいいガン患者は怒ってだんだんお利口じゃなくなって言うことを聞かなくなって、「不幸に怒り、偶然の今に身を委ね、自分の人生を引き受け、形作ってゆく」(一三四頁)というガン患者ですが、ここで語られているのは、「そんな美しく整った物語を語ることで見えなくなってしまうことはないのか」(一三四頁)。ここに行くのがすごいことで、宮野さんの凄みというか宮野さんらしさを感じる。怒って、身を委ねて、たまたまを引き受けて形作っていく。ここまでである意味では仕上がった感じなんだけど、なおかつ、仕上がったはずの足元をもう一度見つめ直す。先程のラインを描く話も、正念場の微妙な話なのですが。
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