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更新日:2020年2月21日 / 新聞掲載日:2020年2月21日(第3328号)

磯野真穂*古田徹也「生きることの不安を問い直す」トークイベント載録(代官山 蔦屋書店)
ほんとうの言葉/それぞれの踏み跡
『急に具合が悪くなる』/『ダイエット幻想』/『出逢いのあわい』

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第8回
人生の意味/物語に回収されること/そして「魂」 〈会場レポート〉



――対話のあとに行なわれた会場との応答では、「自分が選ぶことが物語や社会的な意義に回収されることに違和感を感じている」という参加者からの「人生には意義がないといけないのか、物語に回収しないで人が生きていくことができるのか」という問いに対し、古田氏は「それはすごく大事なこと」と応じ、次のように答えた。 「人生に意味(意義)があるということと、自分自身の人生を生きるということには、重なることもあればそうじゃないこともある。ある確固とした目的に人生を捧げる生き方もあるし、そうじゃない生き方もある。はぐらかすような言い方になってしまうが、人生に意味があるかどうかという、そのこと自体に多様な側面がある。おそらく宮野さんの場合には、表現すること、それを掘り下げて形にすることだった。それはたぶん哲学という営みの少なからぬ部分がそこに向いているようなことであり、それ自体は必ずしも物語ることではないのだけれど、そこで書き言葉で表現するとどうしても物語になる。そこはうまく切り分けられないところ」。

続けて磯野氏は、「私たちが何かを語るとそこにどうしても倫理がついてくる。物語に回収されてはいけないのか、意味を見出した方が良いのか否か、良い/悪いにすぐに振り分けたくなるのが人間。そうではなく、良い/悪いをあえて取り去り、それをただ味わってみるような世界への向き合い方というのもあるのではないか」とコメントした。

「魂」についての質問で磯野氏は、「研究者としてこの言葉を本文に入れるのはとても勇気がいったが「魂」という言葉しか浮かばなかった。最後の「10便」でこの言葉を思いきって投げ、宮野さんから「これまでの研究者人生で自分が「魂」という言葉を使うことがあるなんて想像もしていませんでした」(二二五頁)という言葉が返ってきた。学者同士が「魂の分け合い」といった言葉を投げることに眉を顰める人もいるかもしれないが、この書簡のやりとりの中ではこの言葉がしっくりきた。この本は私たち二人の手紙のやり取りで、その意味では二人に閉じているが、現在この本は多くの人の手にとられ、読者それぞれが自分ごととしてこの本を読んでくださっている。それはこの本に「魂」があるからではないだろうか」として、古田氏に解題を求めた。

古田氏は、「魂が宿るとはどういうことか。何かある実体があってそれが出入りするようなことではなくて、むしろ言葉に多様な広がりと奥行きがあってその無数の連想に繋がっているような広がりを全体として見渡したときに、その言葉の固有性がせり上がってくる。非常にパラドキシカルだが、ほかのいろんな言葉に繋がって置き換えられることが、むしろその言葉の固有性を立ち上がらせる。

なぜそこで「魂」という言葉がしっくりきたのかというと、「魂」というもの自体がおそらくそういうものだから。僕の先生筋の一人で、竹内整一先生が最近書かれた『魂と無常』(春秋社)という本では、「魂」に触れるとか響くという場合の「魂」は、自分よりもっと底の方にあると言われている。その人だけの個別のものというより、広がりの中で自分を超えているものが「魂」であり、その広がりがその人の「魂」を形作っていると。逆に、われわれは「魂」に対する「像」をもっていて、つまりひとだまや幽霊みたいに目に見える塊というイメージが迫ってきて、それにしばられてしまう。「像」はわれわれの理解に役立つと同時に、本当に理解しているはずの「魂」の深みを見えなくしてしまう」と語った。

対話の最後を、磯野氏は次のように締めくくった。

「(人類学者がこれまで報告をしてきた)数々の伝統的社会の中では「魂」に当たる言葉がなんの違和感もなく、日常会話として使われている。ところが、現代を生きる私たちが「魂」という言葉を使おうとすると、言葉を尽くして勇気を振り絞って使わなければいけない。これも一種、現代社会の悲劇かも知れない」。

      (おわり)
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