映画『子どもたちをよろしく』(監督・脚本=隅田 靖)公開記念 子どもたちの心の叫びが聞こえる 寺脇 研×前川喜平インタビュー (聞き手=北條一浩〈ライター〉)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年2月21日 / 新聞掲載日:2020年2月21日(第3328号)

映画『子どもたちをよろしく』(監督・脚本=隅田 靖)公開記念
子どもたちの心の叫びが聞こえる
寺脇 研×前川喜平インタビュー (聞き手=北條一浩〈ライター〉)

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 いじめ、虐待、貧困、子どもをめぐる事件が、連日のように報じられるが、私たちは子どもたちの現実に目を向けているだろうか。いま日本では七人に一人の子どもが「相対的貧困※1」の状態にあると言われ、子どもの貧困率は、一三・九%(二〇一五年時点)。特にひとり親家庭の相対的貧困率は五〇・八%まで上昇している。さらに、厚生労働省がまとめた二〇一七年の調査で、戦後初めて国内の十〜十四歳の死因第一位が自殺になっていたことがわかった。

このたび公開される映画『子どもたちをよろしく』は、そんな子どもたちの世界に目を向けた作品である。描かれるのは、いじめや家庭内暴力、さまざまな依存や差別、欺瞞や同調圧力など、子どもたちを取り巻く社会状況と大人たちのありようである。映画の公開を機に、この映画を企画した文科省出身のお二人、寺脇研氏(元文部省官僚、京都造形大学客員教授)と前川喜平氏(元文科省事務次官)にお話を伺った。   (編集部)

※1:貧困の定義には「絶対的貧困」と「相対的貧困」がある。「相対的貧困」…その国の文化・生活水準と比較して困窮した状態を指す。「絶対的貧困」…人間として最低限の生活を維持することが困難な状態を指す。
第1回
どこにも居場所がない子どもたち

前川 喜平氏
――映画を観終わったあと、すぐには立ち上がることができませんでした。同じような思いをされた方は多いと思います。最初にこの映画の構想から伺っていきたいのですが、企画・統括プロデューサーの寺脇研さんと企画の前川喜平さんはどういうふうに役割分担されていたのでしょうか。
寺脇 
 私は企画・統括プロデューサーで、資金を集めてキャスティングして脚本を書いてもらい、映画を作る役目です。私はこの三月で文部省(現・文部科学省)に入ってから四五年になるのですが、四五年間子どもたちの問題に直面してきて、行政的に解決する最大の努力はしてきたつもりだけれど、それでは全然手が届かない部分があったんです。どういうことかというと、学校の制度というのは行政の仕組みでかなり変えられる。学校をこうしましょう、ゆとり教育をやりましょうといったら段階を踏めばできるわけです。ところが、家庭とか地域というのはそういう行政機構の中では変えられない。一人ひとりに主体的に考え方を変えてもらわなきゃいけないとすれば、それは映画や文学作品など、物語の力が必要だと思うんです。

何年か前に養護施設を扱った連続テレビドラマ(「明日、ママがいない」日本テレビ/二〇一四年一月~三月)が放映されて、いろんな批判もあったけれども、そこで初めて児童養護施設がどういうところで、子どもたちはどんな思いで過ごしているのかということが広く知られるようになりました。そうするとその子たちを見る目も変わってくるんです。私が役所を辞めてそれまでできなかったこと、それが今回の企画になるわけだけれど、企画したのは二〇一六年の春くらいで前川さんはまだ現役でしたから、当初企画は私一人だったのですが、そのちょうど一年後に天下り問題やモリカケ問題(森友学園と加計学園の事件)が起こって前川さんも三八年勤めた役所をお辞めになって民間人になられた。そこでお声がけして一緒にやろうじゃないかとなったのです。
前川 
 ここに出てくるような子どもたちをどうにかしたい、いじめや自殺の問題をどうやって解決したらいいかということは私もずっと考えていた課題でした。寺脇さんがおっしゃられたように、学校というのはある程度文科省からも手が届くところで行政の対象にもしやすいのですが、特にここで描かれているような家庭にはなかなか手が出せない。でもそこにいろんな問題や歪みが溜まってきています。子どもたちが学校や家庭に居場所がないのであれば、その居場所をどうやって作ってあげればいいんだろうと、そういう問題意識はずっと持っていたわけです。教育標語の中にも学校、家庭、地域の連携が大事と書いてあるのだけれど、しかし実際にはどこにも居場所がない子どもがいます。

この映画の登場人物である優樹菜という女性は、私が新宿・歌舞伎町で出会った女性たちとかなり重なるところがあります。私が話を聞いた女性の中には性的虐待を経験した方もいましたし、一番衝撃的だったのは中学生のときにレイプされて、十七歳か十八歳で結婚して、二十歳のときには子どもが二人いて、二一歳で離婚したという女性です。彼女は一人で子どもを育てているのですが、その子ども二人は彼女の祖母、子どもたちから見れば曾祖母に面倒を見てもらっている。でもそのおばあさんは認知症を患っているんです。その認知症の祖母と子どもたちを家に置いて、彼女はキャバクラで働いている。映画の優樹菜はしっかり自分を持っている女性として描かれていますが、私が実際に歌舞伎町で出会った女性たちはフワフワと漂流しているような女性が多かった。それはむしろ、映画の優樹菜の母親に近いのかもしれません。
寺脇 
 そういう話を前川さんから聞いて、映画に反映されているところもあります。パンフレットの中で、前川さんと優樹菜役の女優・鎌滝えりさんが対談していますが、それを読むと鎌滝さんも不登校の時期があったりしたようで、いかに彼女と前川さんの考えていることが通じ合うかがわかります。前川さんはセーラー服歌人の鳥居さんとも交流がありますよね。
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