プラグマティズムの歩き方 21世紀のためのアメリカ哲学案内 上巻  書評|シェリル・ミサック(勁草書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 学問・人文
  5. 評論・文学研究
  6. 世界文学
  7. プラグマティズムの歩き方 21世紀のためのアメリカ哲学案内 上巻 の書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月22日 / 新聞掲載日:2020年2月21日(第3328号)

プラグマティズムの歩き方 21世紀のためのアメリカ哲学案内 上巻  書評
ダイナミックな思想運動に見通しを与える
記念すべき「現代プラグマティズム叢書」の第一弾

プラグマティズムの歩き方 21世紀のためのアメリカ哲学案内 上巻 
著 者:シェリル・ミサック
出版社:勁草書房
このエントリーをはてなブックマークに追加
どうやら最近の日本ではプラグマティズムが流行しているようで、勁草書房さんは「現代プラグマティズム叢書」なるシリーズを立ち上げられ、本書はその記念すべき第一弾とのこと。

プラグマティズムはえてして超越的で形而上学的な説明に懐疑的で、何ごとも人間の具体的な経験や実践との関係のもとに捉えようとする。「真理の対応説」や「傍観者的な知識観」を拒否するから、われわれが手にできる真理や客観性はどこにもなく、あるのは個人にとって役立つもの、あるいは共同体内での合意のみ、といった主観主義的な方向に進むのは自然な流れ――こう考える者はすでにローティの「有害」なネオ・プラグマティズム観に毒されているというのが著者ミサックの見立てである。

彼女にとって「ホンモノ」のプラグマティズム、つまりニュー・プラグマティズムは、「真理についての無歴史的、超越的、あるいは形而上学的な理論を拒絶しつつも、しかしそれでも、人間の行う探究の客観的次元[…]を正当に取り扱うことにコミットしている」(上巻、 6―7頁)。ネオ派のように端から真理や客観性を諦めるのではなく、いわば「人間的な客観性」を追求するのがニュー派なのである。

とはいえ政敵ローティは手強い。センセーショナルな言葉遣いや壮大なビジョンで読む者をウットリさせ、ジャーナリスティックなセンスは大衆の心をつかむ。対抗するミサックは同じ土俵で不利な戦いを挑むことはない。「人間的な客観性」を追求し論理実証主義などハードな分析哲学とも相性のよいパースを高く評価した上で、19世紀の揺籃期から21世紀の現在に至るプラグマティズムの流れの中にパースの精神がこだましていることを膨大な引用とともに示すことで、プラグマティズムは決して主観主義的でも分析哲学のメインストリームとも対立しているわけでもないことを明らかにしていく。引用によって個々の哲学者に直接語らせることで間接的にみずからが描くストーリーを浮かび上がらせるという哲学史家として真っ当な手法は、(苦労が偲ばれるとともに)やはりなかなか説得力がある。
ただ訳者解説でも強調されているように、「ネオvs.ニュー」の対立構図には多分に「プロレス興行」としての演出的な側面があるので、額面通り受け取るのには慎重になるべきか。少しさめたことを言えば、対立が成り立つほどに現在ネオ派がいるのかは疑問で、たとえばローティの一番弟子ブランダムはネオ派筆頭とみなされることも多いが、その推論主義プロジェクトの中心的な課題は反表象主義的に客観性を確立することであり(Making It Explicit(1994))、これはまさにニュー派のアイデンティティ。はたしてミサックもブランダムにパース精神を見て取り、日本語版での序言で、(ブラックバーンやプライスと並べて)ブランダムの「未来のプラグマティズム」を「首肯」している。すると誰がネオ派なのだろうか……もはやローティだけ?と思ったらローティも「プラグマティズムが進むべき道筋はブランダムが歩んでいる道なのだ」と言っているらしいから(下巻、190頁)、もうよくわからない……。

というわけで現在の議論状況を「ネオvs.ニュー」の構図で上手く記述できるかは少々微妙なのだが、それはともかく「人間的な客観性」という観点を打ち立て、それとの距離感によってネオ派とニュー派を配置していくことで、百数十年にわたるダイナミックな思想運動がとても見通しよくなったのも事実である。

原著は初学者や学部生など非専門家をターゲットにしているそうだが、細かな議論があったり、多少マニアックな情報が含まれていたりと、それほど簡単に読めるわけではない。むしろ入門書でプラグマティズム全体の枠組みを把握した者が、そこに生き生きとした肉付けを与えさらなる深みに入っていくのに適している。事典としても使える本書は何度も読み返すことになりそうなので、訳出された日本語が自然なのもうれしい。(加藤隆文訳)(しらかわ・しんたろう=京都産業大学非常勤講師・言語哲学・プラグマティズム)



この記事の中でご紹介した本
プラグマティズムの歩き方 21世紀のためのアメリカ哲学案内 上巻 /勁草書房
プラグマティズムの歩き方 21世紀のためのアメリカ哲学案内 上巻 
著 者:シェリル・ミサック
出版社:勁草書房
「プラグマティズムの歩き方 21世紀のためのアメリカ哲学案内 上巻 」は以下からご購入できます
プラグマティズムの歩き方 21世紀のためのアメリカ哲学案内 下巻/勁草書房
プラグマティズムの歩き方 21世紀のためのアメリカ哲学案内 下巻
出版社:勁草書房
「プラグマティズムの歩き方 21世紀のためのアメリカ哲学案内 下巻」は以下からご購入できます
「プラグマティズムの歩き方 21世紀のためのアメリカ哲学案内 下巻」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
学問・人文 > 評論・文学研究 > 世界文学関連記事
世界文学の関連記事をもっと見る >