プリンストン大学で文学/政治を語る: バルガス=リョサ特別講義 書評|マリオ・バルガス=リョサ(河出書房新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月22日 / 新聞掲載日:2020年2月21日(第3328号)

プリンストン大学で文学/政治を語る: バルガス=リョサ特別講義 書評
ノーベル文学賞作家 の大学講義録
バルガス=リョサ自身の言葉に唸らされる

プリンストン大学で文学/政治を語る: バルガス=リョサ特別講義
著 者:マリオ・バルガス=リョサ
出版社:河出書房新社
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 マリオ・バルガス=リョサは過去数回にわたってプリンストン大学で客員教授を務めた。ノーベル文学賞受賞の報せを受け取ったのもそこに滞在中のことだった。二〇一四年には同大から名誉博士号を授与されている。その翌年の授業の記録が本書『プリンストン大学で文学/政治を語る』である。授業は全七回、「小説の理論」、「ジャーナリズムと文学」という理論的なテーマから始まって、その後は小説四作品(『ラ・カテドラルでの対話』、『マイタの物語』、『誰がパロミノ・モレーロを殺したか』、『チボの狂宴』)と自伝『水を得た魚』についての解説からなる。それに加えて『シャルリー・エブド』事件で重傷を負ったフィリップ・ランソンを交えてのシンポジウムの記録なども収録されている。

授業自体も、作家が一方的にしゃべる講義というよりはプリンストンの専任教授ルベン・ガリョとの対話から成り立っている。本書原題が『プリンストンでの対話』というのはそういう授業の形式からきている(もちろん、作家の小説のタイトルを示唆してもいるのだが)。それだけでなく、受講生からの質問や議論を受けつけているので、討論会の趣もある。プリンストン大学にはレイナルド・アレナスなどの多くの作家の草稿や手紙などがある。ラテンアメリカ文学研究者には垂涎の的の資料の数々だ。そして実はマリオ・バルガス=リョサの資料も収蔵されているとのこと。受講生たちはそうした資料に当たって下調べした上で質問しているらしい。これはプリンストンの学生ではないが、ペルーの学生が過去の文章を発見し、そこに書かれていることが複数の小説に登場するリトゥーマの起源ではないかと質問されたことがあると、作家本人が紹介している。自分でも気づかない側面に気づかせるこうした対話は、作家にとってはずいぶん楽しいに違いない。

対話者たち(ガリョと受講生)の発言は、読者にとっても面白い。『ラ・カテドラルでの対話』と『チボの狂宴』との間の共通点と相違点の検討や、作家の全作品を一貫しているのは嫌悪感だとの指摘は、バルガス=リョサを好んで読んできた私にも新鮮だ。

もちろん、バルガス=リョサ自身の言葉にも唸らされる。小説はブルジョアとともに生まれたブルジョアの文学形式だという一般論を差し向けるガリョに対し、作家が「私はむしろ小説は、生活の中心が農村から都市へ移ったときに生まれたという方が正しいと思います。農村生活は詩を生み出しますが、都市は物語の発展を促します」と解釈の転換を図る言葉を投げ返して始まる一連の授業は膝を打つことばかりだ。

プリンストン同様バルガス=リョサに名誉博士号を授けたけれども、貴重な資料があるわけでもない大学で学生たちとマリオ・バルガス=リョサなどを読む身としては、彼我の差に愕然とし、嫉妬し、憧れ、たいそう楽しくも思うのである。(立林良一訳)(やなぎはら・たかあつ=東京大学教授・スペイン語圏文学)


★マリオ・バルガス=リョサ=作家。二〇一〇年ノーベル文学賞。著書に『緑の家』『ラ・カテドラルでの対話』『楽園への道』『チボの狂宴』『シンコ・エスキーナス街の罠』など。一九三六年生。
この記事の中でご紹介した本
プリンストン大学で文学/政治を語る: バルガス=リョサ特別講義/河出書房新社
プリンストン大学で文学/政治を語る: バルガス=リョサ特別講義
著 者:マリオ・バルガス=リョサ
出版社:河出書房新社
「プリンストン大学で文学/政治を語る: バルガス=リョサ特別講義」は以下からご購入できます
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