ヴォルフガング・オット『鮫と小魚』/ホストヴスキー『スパイ』(共に角川書店) 映画になった二小説 評者:江崎誠致 「週刊読書人」1958(昭和33)年5月26日号|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年2月16日 / 新聞掲載日:-0001年11月30日(第226号)

ヴォルフガング・オット『鮫と小魚』/ホストヴスキー『スパイ』(共に角川書店)
映画になった二小説
評者:江崎誠致 「週刊読書人」1958(昭和33)年5月26日号

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ヴォルフガング・オット著/桜井正寅訳『鮫と小魚』

作者が逃避を許されぬ潜水艦の乗組員として、第二次大戦に従軍したドイツ海軍の下級将校であることに、似たような経験をもつ私はまず興味をひかれた。次に、読み進むにつれて、発想法にかなりの共通点があることを発見して、一種の驚きをおぼえた。
巨大な岩石のごとくのしかかっている自己の体験を素材として、まっしぐらに書き進んだという感じである。これでよいかという問題はあろう。少々乱暴な語り口で、未整理のまま何もかもつめこんでいるという欠点もある。しかし、それが私には魅力でもあった。
人間形成の主要な時期を、ファシズムの軍隊に生きたものは、ここから出発する以外に道はない。観念的な自己批評や反戦思想を盛ろうとしていないことが、この作品に力を与え、文学たらしめている。
『鮫と小魚』は作者の処女作であるということである。このあとどんな作品が書かれるか、読み終えてつよい期待を抱いた。(B6判・三六八頁・三八〇円・角川書店)

ホストヴスキー著/岡田真吉訳『スパイ』

アメリカに亡命中の精神病医が、ふとした機縁から米ソ間の諜報網に巻きこまれる。彼をとりまくスパイたちは、米国側、ソ連側、あるいは二重スパイといった類型ばかりでなく、活動を行っているうち、自分の意志で勝手に動きだした不可解な人物が登場する。それが何者ともわからぬまま、強度の緊迫感をもって最後まで続き、結局正体もあかされない。
二つの陣営の対立を背景とする時代的動揺と心理的分析を基礎に、現代人の陥らされたいわれなき不幸が、怒りとも祈りともつかぬ筆致で描かれているのだが、それは、社会批判や文明諷刺とは異質なもののようである。やはり、スリラーとして読むべきであろう。
私はこの種の作品をほとんど読んだことがないので、構成や手法など斬新なものであるかどうかわからない。ただ言えることは、映画の原作としては恰好のものであろうし、その限りにおいて面白く読める。(B6判・二五〇頁・三〇〇円・角川書店)
(えざき・まさのり=作家)
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