実像 広島の「ばっちゃん」中本忠子の真実 書評|秋山 千佳(KADOKAWA)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月22日 / 新聞掲載日:2020年2月21日(第3328号)

実像 広島の「ばっちゃん」中本忠子の真実 書評
真摯に実像に迫ったレポート
一人の母の悲しみがどの子も「うちの子」という愛に変わる

実像 広島の「ばっちゃん」中本忠子の真実
著 者:秋山 千佳
出版社:KADOKAWA
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 「広島のマザー・テレサ」と呼ばれる八十四歳の女性がいる。七十六歳の定年まで三〇年間保護司を務め、辞めた後も市営アパートで年金暮らしの身で、引続き非行少年たちに手料理をふるまい親身に相談に乗っている。親が薬物依存症だったり、刑務所に入ったり出たり、虐待、ネグレクト、貧困などで居場所のない子どもたちだ。非行に走る子どもたちの更生には、普通の生活を知って貰うこと、共に食べることが一番だという。かれらの間でいつしか「ばっちゃん」の愛称で呼ばれるようになった。自身にもしものことがあった時に活動を引継いで貰うため、二〇一六年にはNPО法人「食べて語ろう会」を結成している。

著者は彼女と週刊誌取材で出会う。だが話を聞いても活動の動機がはっきり見えてこない。「そんな取材なら断る」と自身のことは一切語ろうとしない。彼女の実像に迫りたいと思うのは取材者のさがだ。一年間毎月活動をそばで見せて貰う傍ら、息子たちや親族をはじめとする周辺取材に取り掛る。ちょうど彼女に表彰ラッシュが起こっていた時期である。

メディアにたびたび紹介されるにつれ周囲は放っておかない。法務省特別感謝状、社会貢献支援者表彰、広島市民賞、二〇一七年にはNHKスペシャル放映で全国区へと広がったのを皮切りに、吉川英治文化賞、内閣府表彰、ペスタロッチ教育賞と大きな賞が次々と与えられただけでなく、「ばっちゃん」の本が三冊も刊行された。

社会貢献支援財団会長は首相夫人安倍昭恵。「ばっちゃん」の愛の大きさに感動したと自宅まで訪れ交流が始まる。受賞祝賀会には非行少年たちや協力スタッフに交じり、自民党岸田政調会長、地元代議士、広島高検検事長、法務省保護局長まで顔をそろえ、内閣総理大臣安倍晋三からは祝電。この異様な雰囲気の中で本人は他人事のような顔をしていた。

彼女の三男は、本人が淡々としていても「ばっちゃん」という虚像が、美談の主としてどんどん一人歩きしていくことに危惧を抱き、ありのままの生きざまを伝えてほしいと望んでいた。ちなみに「おだてられ木に登ったが下りられず」は彼女の詠んだ川柳である。

中本忠子は夫の病死で二人の男の子を実家に託し再婚した。これは長続きせず、新たに生まれた三男を抱え働き詰めの生活が続く。母不在の寂しさから息子は非行に走ったこともある。彼女は原爆投下翌日、叔父を探すために爆心地二キロ以内に入った「入市被爆者」だった。そのせいか体が弱く入院を繰返し、四〇代には胃がんで胃を摘出している。

空腹を満たす作業には残してきた息子たちへの祈り、非行に走るほど寂しい思いをさせた三男への想いがあったのではという著者の問いに頷いている。一人の母の悲しみがどの子も「うちの子」という愛に変わっていく。

タイトルにはいささかたじろくが、真摯に実像に迫ったレポートである。人物評伝に取組む手つきにはまだ新聞記者臭が抜けていないが、書き手としてはこれから期待できる人だ。時間をかけて、もっと本人自身に語らせて欲しかった。(あらい・まこと=元編集者)

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この記事の中でご紹介した本
実像 広島の「ばっちゃん」中本忠子の真実/KADOKAWA
実像 広島の「ばっちゃん」中本忠子の真実
著 者:秋山 千佳
出版社:KADOKAWA
「実像 広島の「ばっちゃん」中本忠子の真実」は以下からご購入できます
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