退出ゲーム 書評|初野 晴(角川書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2020年2月22日 / 新聞掲載日:2020年2月21日(第3328号)

初野晴著『退出ゲーム』 
武庫川女子大学短期大学部 木山 采佳

退出ゲーム
著 者:初野 晴
出版社:角川書店
このエントリーをはてなブックマークに追加
退出ゲーム(初野  晴)角川書店
退出ゲーム
初野 晴
角川書店
  • オンライン書店で買う
 やさしくなりたい。私が小説を読む理由の一つだ。本書との出会いはテレビアニメがきっかけだったが、どれも心が温まる話ばかりで原作が気になって読んでみた。小説や漫画、アニメなどの作品にふれたとき、どうしても好きになれない登場人物が一人は存在する。しかしこの作品ではみんなを好きになった。いや最初は好きでなくても、最後まで読んだ後には好きになれたのだ。自分にとっては初めての経験で、キャラクターのまっすぐ、思いやりのあるセリフや時に切なくも前向きな気持ちになれるエピソードがとても印象に残っている。

『退出ゲーム』は〝ハルチカ〟シリーズの一冊目で、「結晶泥棒」、「クロスキューブ」、「退出ゲーム」、「エレファンツ・ブレス」の4編で構成されている。〝ハルチカ〟シリーズとは、廃部寸前の清水南高校吹奏楽部を立て直そうと奮闘する、穂村千夏(チカ)と上条春太(ハルタ)を主人公とする物語。二人は吹奏楽の〝甲子園〟「普門館」を目指している。吹奏楽に打ち込みながら様々な謎を解き明かしていくという、吹奏楽、青春、ミステリーの三つが描かれているストーリーだ。

4編の中でも「クロスキューブ」が一番好きだ。「クロスキューブ」でハルタとチカは、六面すべて白色のルービックキューブの謎に挑む。この謎を解くことが、ひとりの少女が前に進む最初の一歩となる。

この謎はチカとハルタが、部員を確保しようと、成島美代子という女子生徒に接触したところから始まる。彼女は中学時代に普門館で演奏したことがあるオーボエ奏者だった。二人は必死に吹奏楽部へ勧誘するが、彼女は決して首を縦に振らない。成島が吹奏楽を辞めた理由は、普門館での演奏中に入院していた弟が亡くなってしまったからだった。演奏を聴きに来ていた両親も自分も、誰も弟の死に目にあえなかった。成島は自分を責めて、弟の死からなかなか前に進むことができないでいた。そんな彼女の背中を押したのがほかでもないハルタたちだ。

ハルタは「きみの手に負えないものがあれば一緒に悩んであげるよ」とやさしく、また弟の死からまだ一年しか経っていないという成島に、「もう一年だ。大人になってから過ごす一年と、ぼくたちのいまの一年は違うんだ。」と厳しく、謎と心を解いていく。

それは成島自身が欲しい言葉ではなく、そのときの彼女に必要な言葉だった。

やさしさとは、相手の求めに応えることだと思っていた。でも、そうじゃない。たとえ相手が泣いたとしても、苦しんだとしても、その人にとって必要な言葉や行動を与えることなのではないか。そしてきっとそれは、大切に思う仲間や仲間になりたい人に対してだからこそできることなのではないか。

当事者ではない限り、その人の痛みを知ることはできない。だからつい、これくらいの痛みだろう、これくらいの苦しみだろうと決めつけてしまう。それを決めつけるのではなく、想像し、相手に寄り添うにはどうしたらいいのかを考えることがやさしくなる第一歩なのだろう。この話を読んだ後、他人の気持ちについて、「どうせわからない」ではなく「どうすれば少しでも理解できるか」というふうに考えるようになった。私はほんの少し、やさしくなれたように思う。 
この記事の中でご紹介した本
退出ゲーム/角川書店
退出ゲーム
著 者:初野 晴
出版社:角川書店
「退出ゲーム」は以下からご購入できます
「退出ゲーム」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
【書評キャンパス】大学生がススメる本のその他の記事
【書評キャンパス】大学生がススメる本をもっと見る >
文学 > 日本文学 > ミステリー関連記事
ミステリーの関連記事をもっと見る >