沖縄の基地と軍用地料問題 地域を問う女性たち 書評|桐山 節子(有志舎 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月29日 / 新聞掲載日:2020年2月28日(第3329号)

沖縄の基地と軍用地料問題 地域を問う女性たち 書評
地道な研究がもたらした重要な知見
地域社会がかかえる様々な問題に光を当てる

沖縄の基地と軍用地料問題 地域を問う女性たち
著 者:桐山 節子
出版社:有志舎
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 二〇〇二年、沖縄本島の中ほどに位置する金武町の女性たちが地元の入会団体を相手どって裁判を起こした。軍用地料配分の不公平さが提訴の直接の理由だった。しかし本書が明らかにするように、のちに最高裁まで持ち越された裁判は、地域社会がかかえる様々な問題に光をあてることにもなった。

「金武杣山訴訟」と呼ばれることになるこの裁判は、同じ年に結成された「ウナイの会」の女性たち二六名が原告となった。著者によると会の目的は、女性差別を解消して軍用地料配分の不公平性を是正すること、入会団体の役員体制を変えて地域変化につなげること、そして軍用地料の使途を地域の活性化や福祉や教育に当てるよう変えることの三点にあった。
ウナイの会による運動には複数の争点があり、彼女らが差別解消の先に見すえていたのは、「地域運営を男性主導ではなく、女性と男性が共同しておこなう新たな地域づくり」、つまり新たな社会の構想だったのである。しかし、事実を単純化して「旧慣習の改廃問題」として伝える報道各社や識者たちは「因習とたたかうフェミニズム」という旧態依然の視点から抜け出せずにいた。しかも問題は、マスコミや識者の近視眼的な認識が事実関係をとらえ損ねていたということにとどまらない。

著者は、杣山訴訟をめぐる報道や解説が「ウナイの会の要求や広がりを見えにくくするだけでなく、むしろ運動の可能性を切り縮める効果をもってしまった」ことを指摘する。そもそもこの裁判はある日を境に突発的に起こったものではない。その根底には、地域社会を支配してきた沖縄固有の家父長制と米軍基地に由来する諸問題が重層的に作用する仕組みがあった。

本書はその歴史的な要因を明治期にさかのぼって解説する。家父長制イデオロギーを規範化した明治民法は、一八九九年以降に実施された土地整理事業をきっかけに沖縄の人々の日常生活を支配するようになった。著者が文献と聞き取りを通して明らかにしたように、それまでは男女平等に土地の相続が行われていた。明治民法の適用がそれを男性優位の制度に変え、皮肉なことに新民法適用後の一九五〇年代後半になって女性差別が再編・強化されることになったのである。

ではなぜ、そのようなことが起きたのだろうか。原因は米軍占領下で起きた社会構造の変化にあるとする本書の説明には説得力がある。つまり、それまでほとんど無価値であった杣山が米軍に接収されたことで軍用地料が発生し、それが相続をめぐる争いの火種となり、さらには女性差別の問題を顕在化させることにつながった、というわけだ。したがって、女性たちの運動は、基地の維持によって成り立つ利権構造に対する異議申し立てとしての広がりと強度を持ちあわせるようになっていった。著者が言う「運動の可能性」とはまさにそのことを衝いている。

金武町の女性たちへの聞き取り調査から明らかになったのは、占領終了後もなお基地の集中が続いたことで基地由来の利権構造も継続し、その矛盾が社会的弱者に向けられる暴力となって現れたことだ。たとえばそれは、軍用地料配分の不公平さに加えてよそ者の排除や特飲街で働く女性たちへの差別といった形をとる。著者が喝破するように、根源的な問題は「日米両政府の安保政策であり、それに異議を申し立てる全県的な世論や運動の欠如」にある。まさに「事態は重大である」のだ。

金武杣山訴訟は最終的にウナイの会の敗訴に終わったが、著者はメンバーたちの言葉に希望を見出してもいる。生活に根ざした運動から生まれる言葉は力強い。著者は最後に「安全で安心な生活を優先するために、たとえ小さくとも、自分たちの意思で結集することが、女性たちをより強くする力となり、新たな地域をつくることになっていくのではないか」と記している。地道な研究がもたらしたこの重要な知見は、地域社会のみならず沖縄社会全体にとっての新しい道筋をも示しているように思える。
この記事の中でご紹介した本
沖縄の基地と軍用地料問題 地域を問う女性たち/有志舎
沖縄の基地と軍用地料問題 地域を問う女性たち
著 者:桐山 節子
出版社:有志舎
「沖縄の基地と軍用地料問題 地域を問う女性たち」は以下からご購入できます
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