十二月の十日 書評|ジョージ・ソーンダーズ(河出書房新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月29日 / 新聞掲載日:2020年2月28日(第3329号)

十二月の十日 書評
人と人の出会いは祝福
〝ダメでポンコツ〟なあなたに

十二月の十日
著 者:ジョージ・ソーンダーズ
翻訳者:岸本 佐知子
出版社:河出書房新社
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 ジョージ・ソーンダーズ著『十二月の十日』は、十の物語が収められた短篇集である。二○一三年にアメリカで出版され、その年の全米ベストセラー第一位を記録した。ソーンダーズはその後一七年にブッカー賞を受賞。今、アメリカでもっとも注目を浴びる書き手の一人であり、「作家志望の若者にもっとも文体を真似される作家」(訳者あとがき)と呼ばれている。実際、二○二○年一月に文芸雑誌「パリス・レビュー」に掲載されたインタビュー記事のタイトルは文字通り「いかにソーンダーズを真似するか」。聞き手は彼に憧れる作家ベンジャミン・ニュージェント。ここで語られるソーンダーズの小説の書き方が面白い。

まずは小さな欠片から始めるのだとソーンダーズはいう。話の筋などは考えない。まだ文章ですらない小さな欠片、そこから余分なものを取っ払う。そうするとその欠片がちょっとずつ育つ、増える。そしていつの間にかその欠片たちがつながって、物語が立ち上がるのだ、と。

聞き手であるニュージェント曰く、「ソーンダーズの物語はカビやキノコみたいに育つ」。

そのせいだろうか。この十の物語はどれも有機的でとてもリアルだ。そしてどの物語にも登場人物の〝生きた〟心の声が溢れている。最初の短篇「ビクトリー・ラン」、夢見がちな十四歳の少女はいう。

「人は誰でも尊敬に値する存在なのよ。わからない? わたしたち一人ひとりが虹なの」

しかしこのナイーブな楽観主義は他者との邂逅によって無残に踏みにじられてしまう。小さな子供をもつ二人の主婦(「子犬」)、故郷の母を想う服役囚(「スパイダーヘッドからの逃走」)、暴力の衝動を抱えた帰還兵(「ホーム」)、親切が仇となり仕事を失ってしまうテーマパークの従業員(「わが騎士道、轟沈せり」)など、他の主人公たちも、社会的格差や生育環境の違いによって夢や良心、その存在を否定される。

訳者によればソーンダーズの短篇に登場するのは「ダメでポンコツ」ばかり。だがそんな彼らのめくるめく妄想や自分勝手なたわごと、口の悪い会話はパンチが効いていてやたらと可笑しい。不条理な世界にしたたかに根をはるユーモア。ソーンダーズ作品の魅力の一つである。そしてそのユーモアと同じ地に生えるのがSF/ディストピア的要素だ。ことに「センプリカ・ガール日記」で露呈するそれは、鳥肌が立つような生々しさがある。

最後の短篇、表題作の「十二月の十日」。孤独ないじめられっ子と病に侵された男が出会う。死に場所を求めていたはずの男が図らずも男の子を助け、またその男の子に助けられる。死にかけた男が渾身の力をふり絞って男の子に手をさし伸べるとき、「ビクトリー・ラン」の少女の声が甦り、十の短篇が一つの物語になる。人と人の出会いは祝福でもあるのだ。物語の終わり、男の「生きたい」という声が読み手の心に響く。この世界にも希望や喜びはあるのだと、その声は教えてくれる。

自分のことを「ダメでポンコツ」だと思っているあなたに読んで欲しい。主人公たちの〝生きた〟声をとおして笑い泣き怒り、そしてまた泣いたあとに見える世界は、前よりも広く明るいはずだ。
この記事の中でご紹介した本
十二月の十日/河出書房新社
十二月の十日
著 者:ジョージ・ソーンダーズ
翻訳者:岸本 佐知子
出版社:河出書房新社
「十二月の十日」は以下からご購入できます
「十二月の十日」出版社のホームページはこちら
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