藤原俊成 中世和歌の先導者 書評|久保田 淳(吉川弘文館 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年2月29日 / 新聞掲載日:2020年2月28日(第3329号)

藤原俊成 中世和歌の先導者 書評
中世和歌を学ぶ者たちへ、導きの一冊
「和歌史の巨人」藤原俊成の生涯を丹念に辿る

藤原俊成 中世和歌の先導者
著 者:久保田 淳
出版社:吉川弘文館
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 藤原俊成という歌人は、一般には『百人一首』や『新古今和歌集』の編纂者として著名な藤原定家の父と認識されるだろう。しかし、その後半生は歌を詠ずるのみならず、宮廷和歌の世界で指導的な役割を果たした人物である。寿永二年(一一八三)二月には後白河法皇の院宣によって『千載和歌集』の撰者となり、晩年には後鳥羽院の主催で九十賀が催されるなど、歌の世界で重んじられてきた。本書の冒頭部でも、俊成なくして新古今時代の到来はなかっただろうと述べられている。

本書は、そのような「和歌史の巨人」の生涯を丹念に辿ったものである。

歌人の生涯をまとめた著作として、久保田氏には王朝の歌人(九)『藤原定家』(集英社、一九八四年一〇月)がすでにある。各章を「天才児として」、「新風の時代」というように大まかに時代区分した上で、人生のキーワードや作品名などを用いて節を立てる。本文には様々な史料とともに、著者の優れた目が掬い上げた和歌がおさめられていて、その人生を精到に組み上げた一冊となっている。

本書もおおよそこれと共通する構成をとる。「第一章 御子左家の人々――出生以前」で、藤原北家の流れをくむ御子左家の始まりから語りおこし、俊成の父母、兄弟姉妹に至るまでがまとめられていて、史料に乏しい俊成の幼少期を補う。つづく「第二章 歌の家に生まれて――幼・少年期」から「第九章 俊成の栄誉と伝統の継承――晩年期後半」までは、俊成の人生の節目に着目した著者によって八つに区分されている。

先行する『藤原定家』同様、本文には多彩な史料と和歌が用いられている。本書では、これまでに積み上げられてきた中世和歌関連の研究成果に基づく指摘も随所にみられる。

しかしその一方で、和歌文学研究の泰斗である著者の見解に踏みこみすぎない。例えば、俊成と関わりの深い歌評用語について本文中で繰り返し取りあげつつ、『後京極殿御自歌合』の判詞を通観した部分では、「艶」や「余情」に関して「『六百番歌合』の判詞でのこれらの評語の例とともに、今後なおきめこまかに考察すべきことは少なくない」(三四五頁)と語りおさめている。無論、紙幅の都合ということはあろうが、本書にはこのように著者自身の意見が強く表明されていないからこそ、かえって知的好奇心を刺激される部分が散見された。また、研究史上でいまだ解決されていない問題を、整理しつつ提示しているところでも同様に刺激を受けた。本を飛び出してその向こう側へ、読んでいる間にも思考の翼は大きく広がっていく。

本書の「はじめに」で、容易に描きえない「生活者としての俊成の姿」について、著者は「社会科学の方法に通じた方の新鮮な観点から、なまの俊成の姿にアプローチしていただきたいという願いを抱いている」とする。本書のさらに先へといざなう筆遣いが、俊成と彼を取り巻く中世和歌の世界へと読み手を導いていく。中世和歌を学ぶ者にとって必読の一冊が増えた。
この記事の中でご紹介した本
藤原俊成  中世和歌の先導者/吉川弘文館
藤原俊成 中世和歌の先導者
著 者:久保田 淳
出版社:吉川弘文館
「藤原俊成 中世和歌の先導者」は以下からご購入できます
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