小説の神様 書評|相沢 沙呼(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2020年2月29日 / 新聞掲載日:2020年2月28日(第3329号)

相沢沙呼著『小説の神様』

小説の神様
著 者:相沢 沙呼
出版社:講談社
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小説の神様(相沢 沙呼)講談社
小説の神様
相沢 沙呼
講談社
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 この世界には何千何万という数では足りない程の物語が溢れている。子供の頃初めて図書館を訪れた時の衝撃が僕には残っている。視界に入りきらない数の本、綴じられた内から香るインクの匂い、誰かがページをめくる音。こちら側を向いた背表紙の一つ一つに知らない世界が詰まっている事を想像した。たぶんその時、僕の中には疑問が生まれた。なんでこんなにも多くの物語が存在するのだろう。そして、人は何故物語を綴るのだろう、と。

本書はその疑問に対する答えのようなものをくれた作品である。読んで爽快! ああ楽しかった! そう思える本ではないのかもしれない。主人公の千谷一夜は売れない高校生作家。自分の生み出す文章がひどくつまらないものの様に感じ、発行される本は売れる事がない。世間で評価され、求められているものと自分の価値観は違うのではないか。頑張っても報われるとは限らない。そんな現実の闇の中で苦しみ、自己否定を続ける一夜の前にヒロインである人気作家、小余綾詩凪が偶然にも一夜のクラスに転校生として現れ、編集者からの提案で、合作小説を作って行くというのが本書のストーリーである。

小説には現実に立ち向かうための力があると思う、そう語る詩凪を夢物語だと否定する一夜を見て、フィクションである物語の中でくらい綺麗事を言ってもいいじゃないかと嫌いになってしまう読者も多いと思う。けれど、現実を考え妥協を繰り返しながらも心のどこかで希望を持って生きている人にこそ、この本に出会って欲しい。現実を生きる事は何より苦しい事で、頑張ったっていい結果が出るかはわからないし、努力している間のことなんて誰かに認めてもらえない事が多い。そういう現実を知っている人ならば、苦しみぬく一夜に共感できると思う。

何かを成そうと人生を生きる人は心を動かすきっかけがあった人なんだと僕は思う。それは素晴らしい演奏を聴いたとか、迫力のある試合を肌で感じたとか、かっこいい父親の背を見たとか、人それぞれだろう。一夜が詩凪と出会った事で現実と理想の間で苦しみながらも小説を書いた様に。

でもそうしたきっかけに出会えても、大抵の場合、現実はそんなに甘くないと知る事になる。その現実を見て頑張ることをやめてしまう人もいるしやめない人もいる。やめてしまおうかと考えても、運が良ければ他のきっかけに出会えてまた頑張れるかもしれない。きっかけは運に大きく左右されるものだ。都合よくきっかけが現れてくれるのはそれこそ物語の中だけだと思う。物語を好きではない僕の友人が、そういう都合の良さが好きではないと言っていた。そうかもしれない。綴られた物語は都合が良い、きっかけはすぐに現れ、主人公の努力は必ずと言っていいほど報われる。

だけど、それをわかっていても物語は僕らの世界に存在し続けている。一夜という主人公は都合良く、辛い現実に立ち向かう姿を僕らに見せてくれている。その姿が僕らに力をくれる。

そして、物語が終盤に差し掛かった時、気がつくのだ。この世界で物語が生まれ続ける訳を。辛く、残酷で過酷な現実の中で誰かのそばに寄り添う為に綴られる物語の存在を。僕はこの物語を通してそれを知ることができたような気がする。だからこそ僕は、頑張る人に、辛い現実の中で戦っている人にこの物語に触れて、世界に溢れる物語の意味を知って欲しいと、そう思う。
この記事の中でご紹介した本
小説の神様/講談社
小説の神様
著 者:相沢 沙呼
出版社:講談社
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