スノーデン 独白 消せない記録 書評|エドワード・スノーデン(河出書房新社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年2月29日 / 新聞掲載日:2020年2月28日(第3329号)

スノーデン 独白 消せない記録 書評
内部告発者への道、その一部始終
自覚のないまま自己を売り渡しつづけるぼくたち自身の物語

スノーデン 独白 消せない記録
著 者:エドワード・スノーデン
翻訳者:山形 浩生
出版社:河出書房新社
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 「ぼくの名前はエドワード・スノーデン、二九歳です」。ローラ・ポイトラス監督のドキュメンタリー映画『シチズンフォー』(二〇一四年)の一場面だ。カメラに向かった青年は、9・11後のアメリカ合衆国が一般市民を無差別に盗聴する違法の大量監視システムを秘密裏に構築・運用している事実を告発する。その場所がほかならぬ香港だったことは、七年を経た二〇二〇年の世界情勢を鑑みると示唆的だ。

陰謀論まがいの荒唐無稽が実装され、周知も同意もないまま民主主義が骨抜きにされつつある——告発は衝撃的だった。それに劣らず驚愕させられたのは、告発者が、軍や政府の高官ではなく、民間企業に籍をおく一見オタクふうの青年技術者だったことだ。なぜ若くして諜報の世界に入り、最高機密にアクセスできる地位へ上り詰め、そして、すべてを捨てて告発へと踏みきったのか。覚悟の裏にあった葛藤や、一転して国家に追われる身になったあとに襲いかかった苦難。そうした一部始終が、本書では当事者自身の言葉で語られる。読み物としても、ル・カレの小説ばりにスリリングだ。

スノーデンは一九八三年生まれ。子どもの頃にコンピューターに出会い、インターネットの勃興期に思春期を送った。ネットが監視資本主義の草刈場となった今日からは想像しがたいが、当時胎動したばかりのネット空間は、匿名性と平等性を具えたアジールであり、ジョン・ペリー・バーロウの「サイバースペース独立宣言」(一九九六年)にあるように、民主主義と自由の理念がコンピューター技術によって具現した新世界とさえ考えられていた。その強烈な体験が、スノーデンの原点となった。

その原点が「愛国」へ直結する点も興味深い。かれの「愛国」とは、既存体制への迎合や視野の狭い自国史上主義ではなく、合衆国の根幹をなす民主主義とそれを担保する憲法への、ナイーヴともいえるほど純粋で絶対的な信頼である。その信頼が、内部告発者の道を選ばせた。

スノーデンの指摘する大量監視の問題は、今日プラットフォーマーとよばれるGAFAなどデジタル独占資本の問題と同根だ。盗聴といえば一般に個別の通信内容に照準しがちだが、真に価値があるのはメタデータ、すなわち、いつどこで誰と何をどう行ったかといった行動パターンのほうである(意味とはパターンであると喝破したベイトソンの言が想起されてよい)。というのも、メタデータの分析が次の行動予測を可能にするとされているからだ。だが実際には、予測とは一種の構築物であり、予測可能性とは操作にすぎないのだとスノーデンは言う。その操作を通して、国家はひとびとの内側からの統制をめざし、プラットフォーマーは個人をとことん商品化する。

スマートフォンやスマート家電が日常に広く深く浸透した現在、あらゆる行動は逐一データ化され、その記録は永久に消えない。しかも、ぼくたちは自身のデータがいつどのように収集されているか知りえないばかりか、どう利用されるかさえ知らない。自覚のないまま自己を売り渡しつづけるぼくたちは、いまや人間性そのものまで、技術のイメージ通りに作り替えられかねない瀬戸際にある。「だからこそ、ぼくたちには特別な使命がある。こうした過去についての記録が、ぼくたちに敵対する形で使われたり、子供たちに敵対するよう使われたりするのを止めなければならない」(三六八頁)。

であるのなら、本書は、スノーデンという一人の青年の物語であるだけではない。フェイクとディスインフォメーションが繁茂するSNS時代に生きるぼくたち一人一人の物語でもある。
この記事の中でご紹介した本
スノーデン 独白 消せない記録/河出書房新社
スノーデン 独白 消せない記録
著 者:エドワード・スノーデン
翻訳者:山形 浩生
出版社:河出書房新社
「スノーデン 独白 消せない記録」は以下からご購入できます
「スノーデン 独白 消せない記録」出版社のホームページはこちら
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