柳広司インタビュー 国家に葬られたやさしき英雄 『太平洋食堂』(小学館)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年2月28日 / 新聞掲載日:2020年2月28日(第3329号)

柳広司インタビュー
国家に葬られたやさしき英雄
『太平洋食堂』(小学館)刊行を機に

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第4回
過去を振り返ること

柳 広司氏
――この時代、近代国家となるべく、廃藩置県、警察組織や憲法の整備など、日本の社会構造が根底から変わり、それが現代社会の基礎になっていくわけですね。こういう時代だったからこそ、社会主義や無政府主義を標榜する動きが起ってきた。

九章は「社会主義とはなにか」というタイトルで、例えば幸徳秋水の『社会主義神髄』はいまでいう「社会主義、早分かり」的な本で、手っ取り早く知ろうとして、図式的過ぎるとか、マルクスの『資本論』は「余談につぐ余談、脱線につぐ脱線」「マルクス当人は『資本論』を完結させる気はなかったのではないか」とか、誠之助の現実主義者(リアリスト)としての考え方など、それぞれの社会主義が集められています。

この章には、「社会主義とはなにか」という答えは書かれていませんね。
柳 
 この章では、登場人物たちが社会主義をそれぞれどう認識していたのかを示せばよい、と考えました。「単一の歴史観がもたらす悲劇」を私たちは嫌というほど知っているはずなので。

――「政府・官憲は一般的に、取り締まりを容易にするために、わざと言葉を曖昧につかう傾向がある」、社会主義、共産主義、無政府主義などを「まとめて主義者と呼んだ」というところですね。

その章以降も小説のところどころに、誠之助たちの言葉が紹介され、「何かを変えるためには、誰かが声をあげ、かつ言いつづける必要がある。それだけの話だ」と。

興味深かったのは、幸徳秋水は、すがとの相愛を通して「革命はここ(両性の平等)から始めなければならない」と気づいたのではないかという考察です。登場人物たちの思考も深度が変っていって、読み進むとともに読者もいろいろと考えていける、そんなふうに書いてくださっているように感じました。
柳 
 私は、初めにざっくりと小説全体の絵柄をイメージして、書き進む中でさらに資料を読み込み、それぞれの場面にふさわしい陰影を発見して、描き込みをしていきます。そのとき書いている自分自身も驚くような何かがなければ、読者にも楽しんでもらえないと思っています。例えば社会主義をこうと決めつけて、同じようなことを書くのだと、手が慣れて簡単に書けてしまう。これではなんの驚きもなく、誰の心にも響かないでしょうね。私自身が気になるところを深掘りしていったら発見があった。その発見を重ねて、物語が生まれてくる、というように書きたいと思っています。

それでマルクスの『資本論』も、こんなふうに読んでみてもいいんじゃないかなと(笑)。学術論文ではなく、この作品に出てくる者たちの視点に寄り添って、あくまで小説として書いているものですから。とにかく目的は、読者にどうしたら面白く読んでもらえるのか、それだけです。

――幸徳秋水の『平民新聞』を急進化させるきっかけになった足尾銅山事件も、忘れかけていましたが、酷過ぎる事件で驚きました。「殖産興業」を掲げる国家の権力者たちは、いかようにも事実を捻じ曲げ、問題をすり替える。それと闘うために、田中正造が命を投げ打って直訴しようとしたけれど、狂った老人と扱われ、なかったことにされてしまう。あるいは被害を受けた人たちが、微々たる賠償金で、むしろ周囲からやっかまれるようなことまで起こる。
柳 
 現在の福島の原発事故などと二重写しに見えてきますよね。これは私だけが考えていることではなくていま、いろいろな方たちが、足尾銅山事件に絡めて、過去が繰り返されていることを訴えています。過去を振り返ることは、私たちにとって、どうしても必要なことではないでしょうか。
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この記事の中でご紹介した本
太平洋食堂/小学館 
太平洋食堂
著 者:柳 広司
出版社:小学館 
「太平洋食堂」は以下からご購入できます
「太平洋食堂」出版社のホームページはこちら
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