連載   今日における映画の扱われ方   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 143|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く
更新日:2020年3月2日 / 新聞掲載日:2020年2月28日(第3329号)

連載   今日における映画の扱われ方   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 143

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「カナルプリュス」(TV局)のパーティーで、右端にドゥーシェ

HK 
 タルコフスキー、パラジャーノフ、ソクーロフら、確かにロシア映画には偉大な映画監督たちがいました。僕の話したかったのは、そのようなロシア映画についてではありません。それよりも、ロシア映画に対する、同時に映画自体に対する観客の態度についてです。エスター・ショブの映画の上映の際に見た光景が、今日における映画と芸術をよく表していると思いました。上映の二時間ほど前に、僕はポンピドゥーセンターにいました。映画のチケットを確保した後、常設展や企画展を訪れるための、上階へと向かう長いエスカレーターを昇りながら、知的そうな人たちの会話が耳に入ってきました。「今日は何の映画を上映するんだ」「ソヴィエトの二〇年代の映画だ」「そんな古い映画なのか。あり得ない。映画博物館ではないんだから」という会話が耳に残っています。
JD 
 フランスの恥です。
HK 
 (笑)冗談ではなく本音だったのだと思います。不思議なことに、彼らは何の疑いも持たずに展覧会場の中に入っていきました。論理的に考えてみると、ポンピドゥーで扱っている作品は現代のものなので、二〇世紀のものです。加えて、ダダやキュビズムなどは、エイゼンシュタインよりも古い。言い換えると、ポンピドゥーにある作品と映画の黄金期はおおよそが同じ時代です。これは一例に過ぎませんが、映画が古びたものとされる一方で、他の芸術はそのようなことはありません。
JD 
 要するに、映画に対する大衆の態度は、発明当初から何も変わっていないのです。映画が発明された当初には、映画を怖がる人々がいました。映画がその当時のモラルに反するものとされていたこともあったからです。それから、徐々に受け入れられていくことになりました。つまり、メリエスが行ったような興行としてのスペクタルを人々は楽しむようになった。しかし今言ったような背景もあり、当時の知識人たちは、真っ向から映画に反対する立場をとっていました。「映画は興行であり芸術ではない」「映画が人々を白痴にする」などなど、様々な言い方がなされていました。映画を芸術であると考えていた人々も古くからいましたが、本当に僅かでした。私たち(『カイエ』の仲間)が映画を発見した際には、フランスには、それこそが映画の芸術だと考えられいた映画もありました。
HK 
 それが「知的な」映画ですね(笑)。
JD 
 そうです。カルネ、デュヴィヴィエ、オータン=ララなどの映画作家たちです。歪んだフランス像を生み出し、押しつけ、それこそが絶対的なものだとしていたのです。彼らは決して出来の悪い映画を作っていたわけではありません。しかし、面白くないものだと思います。いずれにせよ、私たちはそのような映画ではなく、別の映画こそが芸術だと主張しました。アメリカ映画、フランスの一部の映画、黒澤明のような日本映画など、デュヴィヴィエらの映画とはかけ離れた映画があったのです。そして『カイエ』は、映画芸術について再考することになり、多くのシネフィルや批評誌が続くことになりました。しかしながら、現在にいたるまで人々は芸術としての映画には興味がないのです。
HK 
 ソヴィエトの二〇年代のドキュメンタリー映画が芸術であったのかはわかりませんが、その映画と同じくらい古い絵画や彫刻は非常によく受け入れられているようです。
JD 
 それはスノビズムです。映画の発明から半世紀近くの間、それが何であるのかを考えずに、映画を貶していた知識人たちと同じです。つまり、確立された価値観の中にいることで満足しているのです。ある時代においては「ルノワール、それは画家のことか」「セザンヌの絵は絵画ではない」「コクトー、パニョル、アルトーなど演劇ではない。モリエールやラシーヌこそが演劇だ」などと言う人たちがいました。
HK 
 自分が知っているものの方が、おもしろく見えるのではないでしょうか。
JD 
 そうです。要するに、自分の知らないものなど、優れたものではない。自分が知っているものこそが、優れたものでなければいけない。そのような考え方です。

   〈次号へつづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテーク・ブルゴーニュ)
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