直筆の漱石 発掘された文豪のお宝 書評|川島 幸希(新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年3月7日 / 新聞掲載日:2020年3月6日(第3330号)

直筆の漱石 発掘された文豪のお宝 書評
名探偵の「事件簿」さながら
新発見の「お宝」を証明するまでのプロセス

直筆の漱石 発掘された文豪のお宝
著 者:川島 幸希
出版社:新潮社
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 さながら名探偵が難事件を解決した「事件簿」のように、本書では日本を代表する近代文学書のコレクター・研究者である川島氏が資料と出会い、それが新発見の「お宝」であることを証明するまでのプロセスが語られている。たとえば第一章では、大手出版社の編集者によって、「漱石の自筆資料」とされる原稿用紙が持ち込まれる。推理の依頼が舞い込んだというわけだ。しかし奇妙なことに、その『自転車日記』と『倫敦消息』の原稿は、全体的には漱石以外の人の筆跡にみえる。ただし『倫敦消息』中の、ところどころ施された修正箇所だけは、漱石の筆跡と酷似しているのだ。漱石の自筆原稿を丹念に観察する経験を積んでいたからこそ見抜くことができたその直感は、他の専門家の意見とも一致することで確信に変わる。続いて、既知の資料ではないかどうかのチェックだ。『漱石全集』に未掲載の新資料であることを確かめると、原稿を所蔵者より購入してさらに分析を重ねる。「漱石がいつ、何のために『倫敦消息』を修正したのか」という大きな謎こそが本丸だ。

その謎を解き明かすには、漱石作品がどのような出版形態を取っていたのかという網羅的な知識が生きてくる。漱石作品はその人気から、最初の単行本以後も縮刷版やアンソロジーなど、再録単行本が多数刊行された。また、それぞれの出版物は、重版の過程で本文や装幀などに変更が加わることがある。こうした全体像が頭に入っていれば見通しがつく(名探偵でない私達は、『定本 漱石全集』二七巻の清水康次による書誌を参照しよう)。上記の謎にも鮮やかな解答が示される。ここでそれを記す野暮は控えたい。

若者にむけた漱石の談話「文学志望者の為めに」(『青年評論』一九〇八・九)の新発見は、本書の白眉といえる(巻末に全文収録)。雑誌から新たな記事を見つけたのがどれだけすごいことか、ピンとこない人もいるだろう。歴史を遡ろう。一九一六年一二月、漱石が亡くなる。間もなく弟子達によって『漱石全集』が企画され、漱石が書いた「全」てを「集」める必要ができる。雑誌上で資料提供を呼びかけて完成した『漱石全集』は好評を博し、その後リニューアルのたびに増補を続けた。とりわけ鎌倉幸光や斎藤昌三らコレクター・書誌学者らが多大な貢献をしたことが近年、山下浩によって明らかになった。漱石没後百年以上にわたる資料探索・研究の厚みがあればこそ、新資料の「発掘」は驚くべきニュースとなる。そうしたニュースに接し、他作家の資料など様々な文化財が廃棄を免れ、資料館に寄贈されることもあると聞く。

名探偵は一日にしてならず。あとがきで川島氏は「資料探索の手の内を見せるのは自分の首を絞めるようなものだが、発見の喜びを多くの人に味わってもらいたいという願いから本書で実例を示した」という。本書を手引きに、新たな発掘家と名探偵が現われることを願ってやまない。
この記事の中でご紹介した本
直筆の漱石 発掘された文豪のお宝/新潮社
直筆の漱石 発掘された文豪のお宝
著 者:川島 幸希
出版社:新潮社
「直筆の漱石 発掘された文豪のお宝」は以下からご購入できます
「直筆の漱石 発掘された文豪のお宝」出版社のホームページはこちら
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