対談=中島隆博×納富信留 「世界哲学」、違和感からの再始動 『世界哲学史 全8巻』(筑摩書房)刊行開始‼|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年3月6日 / 新聞掲載日:2020年3月6日(第3330号)

対談=中島隆博×納富信留
「世界哲学」、違和感からの再始動
『世界哲学史 全8巻』(筑摩書房)刊行開始‼

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第6回
最先端の研究の手触りを得る

中島 隆博氏
納富 
 ただ新書という簡便なものにしては、割と最先端がみえるものになっている気がします。
中島 
 そうですね。いまギリシア哲学でどんな議論がされているのか、インド哲学ではどうか、手触りが得られる感じでしょうか。

一巻は「世界と魂」が軸になるテーマとなっていますが、「魂」について世界各地でどんなふうに思考されてきたのか、差異を比べたり、重ね合わせて新たな筋立てを導き出したり、楽しんでいただきたいですね。
納富 
 一つ一つの章は比較的短く、哲学議論として全てはとても語れていませんが、僕も読んでいてうれしい驚きがありました。

例えば二巻でインド哲学・仏教学の下田正弘さんが「大乗仏教の成立」を書いていますが、これまで大乗仏教と小乗仏教と、二つの別のグループがあると認識していたけれど、違うんですね。同じグループが、大乗と小乗の違う行為をするのだと。これはかなりラディカルな見方です。それから青木健さんは「ゾロアスター教とマニ教」を書いていますが、ゾロアスター教の成立は普通、ギリシアより以前の紀元前八世紀ぐらいだといわれているのだけど、紀元後だと明言しているんです。ゾロアスター教が整備されるのは、マニ教よりあとだと。ゾロアスター教がローマ時代の宗教だなんて知りませんでした。
中島 
 多少仮説も入っているかもしれませんが、各々の専門家が最先端の研究を披歴してくれているのは楽しいですよね。
納富 
 それから巻末の年表もおすすめしたい(笑)。時代ごとに各地を横に並べると面白いことが見えてきます。一巻は縦軸に「エジプト・メソポタミア」「ギリシア・ローマ」「インド」「中国」をおいていますが、二巻ではどこで縦割りを切るか悩ましく、結果「ヨーロッパ」「西アジア・北アフリカ」「インド」「中国」と切りました。すると「西アジア・北アフリカ」の区分には、イエス・キリストにパウロもいれば、プロティノスやイアンブリコスといったギリシア哲学の人たちも入るんです。マニ教の開祖である、マーニー・ハイイェーも、ムハンマドも当然こちらだし、アウグスティヌスも北アフリカ生まれなんですよ。この分け方が正しいか、異論はあると思いますが。
中島 
 この年表は一つの見方かもしれませんが、ヨーロッパ中心主義的な考えは揺るがされますよね。
納富 
 ギリシア哲学とキリスト教は対極にあるかにみられているけれど、イエスが生まれたところと、イアンブリコスやプロティノスが生まれたところが、実はほぼ同じ場所だという認識を持つと、時代や地域のみえ方が違ってきますよね。
中島 
 内村鑑三は、キリスト教はアジアの宗教だと強調していましたが、確かに地理的にみればアジアですね。
納富 
 先ほどの「ゾロアスター教とマニ教」の章には、マニ教の普及地図が入っているのですが、これも面白くて、サーサーン朝ペルシア帝国時代に、西アジア、中央アジアあたりで成立したマニ教が、中国まできているんです。
中島 
 マニ教が唐に入ったのが六九四年だといわれています。
納富 
 現存する中国の仏像や寺社にも、マニ教の影響が残っていると。二巻の帯写真の仏像はまさにその一つです。
中島 
 元末に白蓮教徒の乱が起こっていますが、白蓮教とは弥勒信仰とマニ教の融合したものなんです。中国の明という国号は、マニ教を意味する「明教」から来ているという説もあるようです。明を建てた朱元璋は元々白蓮教徒でしたからね。ただし、後に白蓮教では国は作れないとして、弾圧するわけですが。 

世界は我々が考えているより、はるかに緊密に繫がっています。モンゴルが世界帝国になったことはよくよく考えてみたいですね。
納富 
 アレクサンダーもギリシアから東方遠征にきていますしね。それを後付けで、インド文明とかヨーロッパ文明とか、名付けて区分してしまったわけですね。

三月初旬に刊行される三巻には、ようやく日本が登場します。
中島 
 三巻にはイスラームも出てきますね。昨今の社会事象を鑑みてもイスラームをどう理解するかは重要なのではないでしょうか。

僕は、「啓蒙と人間感情論」の六巻を楽しみにしているんです。「感情」の問題を、いろいろな視点から考えることで、近代の捉え方を考え直すことができるのではないかと思っています。
納富 
 まだ道半ばですね。読者の方々にも伴走してもらいつつ、この「世界哲学」のプロジェクトを進めていければと思っています。(おわり)
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この記事の中でご紹介した本
世界哲学史1 ── 古代I 知恵から愛知へ/筑摩書房
世界哲学史1 ── 古代I 知恵から愛知へ
編集者:中島 隆博、納富 信留、山内 志朗
出版社:筑摩書房
「世界哲学史1 ── 古代I 知恵から愛知へ」は以下からご購入できます
世界哲学史2 ── 古代Ⅱ 世界哲学の成立と展開/筑摩書房
世界哲学史2 ── 古代Ⅱ 世界哲学の成立と展開
編集者:中島 隆博、納富 信留、山内 志朗
出版社:筑摩書房
「世界哲学史2 ── 古代Ⅱ 世界哲学の成立と展開」は以下からご購入できます
世界哲学史3──中世Ⅰ 超越と普遍に向けて/筑摩書房
世界哲学史3──中世Ⅰ 超越と普遍に向けて
著 者:中島 隆博、納富 信留、山内 志朗
出版社:筑摩書房
「世界哲学史3──中世Ⅰ 超越と普遍に向けて」は以下からご購入できます
「世界哲学史3──中世Ⅰ 超越と普遍に向けて」出版社のホームページはこちら
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